大体この時期の記憶ない

 さて飲み会の時期である。送別会だの花見だので飲む機会が増える。そうなると気になる人のお近くに行きたいと思うのは男女問わず誰しも同じことを思うはずだ。私の気になるお相手は部長の浅井さんである。

 浅井さんは部長の肩書が示す通り壮年のダンディズム溢れるオジサマだ。とご本人に言うと『まだまだダンディなんて歳じゃないよ』とおっしゃるかもしれない。そしてイケオジの浅井さんの奥様は大変な美人さんである。何て言うか本当にびまじょ(笑)なんかではなくきれいに歳を重ねた女性って感じの方だ。併せてお嬢さん方も奥様そっくりの美人さんである。美人遺伝子こえーって初めて見たときは思った。部所でBBQをした時にご家族でいらしていたのだけど部長家族のところだけ空間が輝いていて他の連中がざわついていたくらいだ。

 そんな浅井さんが気になる。もちろん恋愛感情ではない。配属されてすぐにときめきかけたが奥様を拝見してそのときめきは霧散した。あ、無理です。すみませんでした! って感じ。今の気になるは『どのようにしてあの美人をゲットしかた?』である。ぜひともお伺いしたい。そのためにも飲みすぎないようにせねば。

 「浅井さん、お隣よろしいですか?」

 「はい、どうぞ。なにを飲みますか?」

 「瓶に残っているビールをいただけますか?」

 「新しいのを頼みますよ」

 「いえ、炭酸がきついのが苦手なので残っているものをいただきます」

 どうですか、この腰の低さは。世のえらっそうなオジサンたちは見習ってほんと。駅で女子突き飛ばしてる場合じゃないですよ?

 「そう言えば浅井さ部長の奥様ってお仕事されているんですか?」

 「働いてますよ。在宅ワークなのでずっと家にいますけどね」

 「失礼かもしれませんが、そういったお仕事の方とどこでお知り合いに?」

 「図書館です」

 「図書館」

 以外。でも言われてみれば昼休みや始業前に部長が本を読んでいるのは見たことがある。

 「昔妻は図書館で司書をしてましてね。在宅ワークに就いたのは娘たちが幼稚園に行くようになってからです」

 「あ、なるほど」

 「図書館で調べ物をしていたときに司書であった妻にリファレンスを頼んだのが出会いです」

 「なんか、すごいロマンチックですね」

 は~~~~とため息が出た。なんていうかイケメンと美女は出会いもロマンチックなんだな~~~~ともはや別次元のことのような感想が出る。

 その後も出会いから付き合うに至るまでを穏やかな語り口で教えてもらった。教えてもらったはずなのだ。だというのに、どうして私は飲みすぎちゃうかな?????? な~~~~んにも覚えてなくて泣きそう。

 しかし私は一つ覚えている。出会いはどこにあるかわからない。頑張ろう。努力をする人を誰かが見ているものなのだ。

 

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