街にはかま姿が行きかう

 「おお袴だ」

 「かわいい」

 「かわいいねえ」

 「わたしも着たい」

 「今17歳だから5年後?」

 「着られるかなあ」

 「どうかな?」

 わたしたち、浅井紺乃と浅井藍乃は双子の姉妹だ。元からとても似ているけど、それを更に似せるように2人で意識して行動している。だから両親以外でわたしたちを見分ける人はなかなかいないし、そう見えるように努力をしている。

 我が浅井家の近くには大学が複数点在しているためか3月下旬の今時分は袴姿のお姉さま方が行きかう姿が見受けられる。それを家の窓から2人で見下ろしていた。

 「藍は何色の袴がいい?」

 「藍色かな? 紺色かな?」

 「名前に合わせてもいいし逆にしてもいいね」

 「臙脂とピンクとかぜんぜん違う色にしてもおもしろいね」

 「まったく同じでも楽しいね」

 「でもお母さんとお父さんはなんでわたしたちの違いが判るんだろう?」

 「うーん、なんでだろう。自分たちでもたまによくわからなくなるのにね」

 それはわたしたちにはわからない。きっと本人にはわからない差異があるのだろうけど。でも聞いても2人とも教えてくれない。お母さんは

 「なんでって言われてもね。違うもの」

 お父さんは

 「逆になんで自分たちが同じに見えると思ってるんだ?」

 とか言う。よく考えると両親が言ってることが同じなのが腹立たしい。

 「来月から3年生だね」

 「そうだね。受験生だ」

 「大学どうしようか」

 「探さなきゃなあ」

 「「せっかくだし違うところにする?」」

 「……それもいいかもね」

 「たまにお互いのキャンパスに遊びに行ったり」

 「入れ替わるのもいいね」

 「「そうしたらわたしたちの違いが分かる人が増えるかもしれない」」

 「楽しそうだ」

 「悪くないね」

 卒業式が始まったのだろうか。外にはもう袴姿の人は見当たらない。

 

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