もはや箱ティッシュが親友です

 「ない」

 「なにが」

 「ティッチュ」

 「ヤバいな?」

 「ヤバいね」

 今、我々は切実な問題にぶち当たっている。我が家のボックスティッシュが切れたのだ

 。我が家は4人家族。私と旦那と高校生で双子の娘。全員花粉症。そして今は3月下旬。これらがなにを意味するか。死だ。

 笑い事ではなく花粉症で鼻をかむものがないとか不味すぎる。

 「どうしようか?」

 「買いに行かないと」

 「あら、壮太さんが行ってくださるの? さすが旦那様! イケメン!」

 「え、京子さん行ってきてよ。ドラッグストアの会員カードあるでしょ」

 「お貸しするから大丈夫!」

 「鼻水が垂れ流しになるから嫌」

 「私だって嫌ですよ!」

 「藍か紺は行ってくれないかな」

 「高校生にもなってお使いなんて行くかしらね。あの子たちだって花粉症なのに」

 しかし私も旦那も行きたくないということであれば娘たちに行ってもらうほかない。私たちは2人の部屋を訪ねた。

 「藍、紺、お使い行ってきて」

 「「え~やだ~」」

 イヤイヤ期かな? と思うような返事がブルゾンで返ってきた。まあ私だって高校生の時にお使いに行ったかというと行くわけがないのだけど。

 「ボックスティッシュがなくなっちゃったのよ。あなたたちも困るでしょう」

 そう言うと2人が部屋から顔を出した。

 「「困りませ~ん。私たちはちゃんと買い置きしてま~す」」

 「マジか」

 「やあね、子供たちの方がしっかりしてるわ」

 我々夫婦はすごすごとリビングに戻る。

 「思ったんだけど」

 「はい」

 「一人が犠牲になるのって感じ悪くない?」

 「まあ、そうねえ」

 「だから2人で一緒に行こうか」

 「……そうしましょうか」

 そうこうして私たちは久しぶりに2人きりで買い物に行くことになった。

 「せっかくだから手でもつなごうか」

 そう言って壮太さんが笑う。私も笑って手を差し出す。2人とも鼻水まみれで顔は真っ赤だけど、まあ悪くない。そうやってここまで歳を重ねてきたのだから。

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