「サクラサク」本物はまだ少し先
「さみい」
「寒いねえ」
3月上旬のとある神社。わたしは幼馴染であり先日からようやく付き合うことになった倉橋伊織と2人でお参りに来ていた。ここの神社は所謂勉強の神様が祭られていて受験の前にも2人でお参りに来ていたのだけど無事に2人とも合格したからお礼を言いに来たのだ。
「おかげさまで2人とも合格しました。ありがとうございます」
「お世話になりました」
本当にお世話をしてくれたかどうかはわからない。どっちかと言えば2人で出かける口実が欲しかっただけかもしれない。付き合い始めたとはいえ、長いこと幼馴染をやっていたから今更改めて『デート』をするのは気恥ずかしいのだ。
「けいはこの後行きたいとことかある?」
「うーん。寒いからどこか入ろうか。映画とか行く?」
「今はあまり新しいのをやってないんだよな。春休み前だし」
そんなことを言いながら並んで歩いて、どちらともなく手をつなぐ。幼稚園の時もこうして手をつないで歩いていたから、ある意味懐かしい。
「まだまだ寒いよなあ」
「そうだねえ。桜の開花が待ち遠しいよ」
「理論上は『サクラサク』なんだけどな」
「物理的にはまだだねえ」
でも寒いからこそこうやって寄り添って手をつなぐのもすんなりできる気がする。暑いのにわざわざくっつくのも気恥ずかしいし。
「取り合えず駅前まで歩こうか」
「そうだな。歩いてたら暖かくなるかもしれないし」
わたしはいーちゃんと一緒ならどこでもいいんだけどさ。
「けいと一緒ならどこでもいいよ」
「あれ、言うつもりなかったんだけど」
「2人で同じようなこと考えてたんだろ」
いーちゃんの鼻が赤いのは寒いからか、それとも。
「駅ビルに入ってた新しい本屋さん行きたいな」
「お、いいな。ほしい本あったんだ」
たわいもない雑談を、できれば死ぬまでこの人と。なんて、流石にこっぱずかしくて言わないけれど、いーちゃんも同じように思ってたらいいなと思う。
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