花、華、鼻 ムズムズ
「ひっくしゅ」
「大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと噂されただけ。っくしゅ」
「いや、花粉症でしょ」
早春から初夏にかけてわたし、歌原絵月とその彼氏である八重は毎年同じ会話を繰り広げている。確かにこの時期になると顔全体と目や鼻、口の中がかゆくなるし、ひっきりなしにくしゃみもしている。だが断じて花粉症ではない。根拠はないけど花粉症なわけがない。ただの風邪だ。
「いい加減耳鼻科で検査してくればいいのに」
呆れたように八重が言う。
「大丈夫だよ。ただの風邪だよ」
「風邪でも病院行きなよ」
八重の正論にスイっと目をそらす。
だってさ、この時期の耳鼻科はインフルエンザ疑いの人やそれこそ花粉症の人でめちゃくちゃ混んでるんだよ。それになあ……。
「間違いなく花粉症なんだから気にせず検査したらいいのに」
「ぐぬぬ」
わたしは体調不良で検査するとだいたい健康であることを褒められる。腰痛でレントゲンを撮れば背骨の形と軟骨が綺麗であると褒められ、頭痛でMRIを受ければ脳内の血管がとても綺麗だと褒められ、腹痛でエコー検査を受ければ胃や腸に傷一つなくとても綺麗で健康的であると褒められた。一見健康で良いことのようであるが、実際はそれぞれの不調の原因がまったく不明のままなのでわたしとしてはちっとも良くない。なにも解決せず、なにも改善しないのだ。頭痛と腹痛はいまだに頻繁に発生している。腰痛はラジオ体操をしたら治った。
そういうわけで、わたしは病院で検査を受けるのが嫌だ。時間と金ばかりかかってなにも判明しないし解決しない。でも確かに八重の言う通り、どう考えても花粉症だからさっさと検査すればいい気もする。
「一緒に行こうか?」
「いや、アラサーにもなって病院に一人で行けないのはちょっと」
「そうでしょう。次の土曜日にでも行っておいでよ」
「ぐぬぬ」
もう一度くしゃみをして、そろそろ年貢の納め時かしら……とため息をついた。
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