100 タイムマシーン

「遂に完成したぞ……」

「ええ……」


 博士と助手が完成したばかりの機械に目を落とす。鉄板で覆われた棺状の機械からはコードが何本も伸びており部屋の端にある操作盤につながっていた。開閉できる上蓋には直径二十センチメートル程の円盤状のガラス窓が取り付けてあり、そこから中を覗くと二時間ずれた電波時計がせわしなく針を動かし始め時間を探っていた。この時計は二時間前から今まで時を刻むのを止めていたのだ。


「まさかワシが生きている間にタイムマシーンが完成するとはな」

「博士、これはすごい発明です! 発表すればノーベル賞は間違いないでしょう」


 二人が作ったこの機械はタイムマシーンであった。この機械を使うと棺の外の時間を圧縮することができ、結果棺の中は未来へ行くことができる。先程の実験では二時間だけ時間を高圧縮させた事で棺の中の時間がまるで止まっていたように見えていたのだ。逆に中からガラス窓越しに外を見れば一瞬の内に景色が変わっていただろう。


「うむ。一時間程の動物実験では体への影響がない事も確認が出来ている。あとは……人体実験でレポートをまとめれば学会へ発表ができるな」博士は腕を組み、何やら思案している。

「そうですね」助手は棺から時計を取り出し、コードや棺の点検をしている。

「博士、素晴らしいレポートにまとめ上げる為にも実験は博士自身が行うのがいいかと」

「ワシもそう思っていたところだ。実体験に勝るものはないからな。早速実験に取り掛かろう」

「分かりました」点検を終えた助手は操作盤の元に向かう。

「では、三日程未来へ行くのはどうでしょうか? その程度ならレポートをまとめる為の時間にそれ程支障はないと思います」

「そうだな。一時間や二時間では物足りないしな。では三日先の未来へ時間をセットしてくれ」

「分かりました」


 助手が操作盤で時間をセットし終えると、博士は既に棺の中でスタンバイを終えていた。助手は棺の中の博士へ声をかける。

「では、行きますよ」

「うむ」

 起動スイッチを押した助手はすぐさま棺に近寄りガラス越しに博士の顔を覗いた。

「……うまくいったな」

 博士は中で事切れていた。実は助手は棺から延びるコードをこっそりと差し替えていたのだ。その結果、外ではなく棺の中の時間が三日分高圧縮されたのだ。棺は密封されており酸素の供給がない。三日を待たずして博士は酸素を使い切り絶命したのだろう。

「これでノーベル賞は俺のものだ。おっと、忘れないうちに……」

 コードを入れ替えたままのタイムマシーンは助手にとって最高の機械であった。助手は千年後へ時間をセットし直し起動スイッチを押した。

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