080 おふくろの味
「うーん、やっぱりちょっと違うなぁ」旦那がお玉に入った味噌汁を一口飲み首を傾げた。「材料も一緒なはずなんだけどなあ、何か物足りないような……」
おふくろの味を再現したいと言って旦那が台所に立ち早一週間、未だに納得のいく味噌汁は出来ていないようだ。一人っ子で育った旦那は早くに父親を亡くし、母親も一昨年他界した為、味を知っているのはこの世に旦那一人だけだった。
「もうちょっとだと思うんだけどなあ」夕食も終わり、脱衣所で服を脱ぎながら旦那は悶々としていた。
「あれでも十分に美味しいわよ」私は声をかけた。
「いやあ、あと一歩なんだよ、あと一歩……」納得のいかない表情で旦那は浴室へと消えていった。
翌日、仕事が終わり家に帰ると珍しく旦那が先に帰っており味噌汁づくりをしていた。お玉で味見をする旦那の表情は心なしか笑顔だった。
「あー、おかえりぃ。実はさあ、味噌汁が完成したんだよね」お玉で鍋の味噌汁をかき混ぜながら旦那は言葉を続けた。「結局のところ隠し味だったんだよ、隠し味。昨日風呂入る時に思い出したのよ。いやあ、俺も入れてるとこ一回しか見たことないから忘れていたんだよなぁ」
笑顔を見せる旦那の足元には見知らぬ洗濯洗剤の箱が置いてあった。
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