065 行方不明者
これは知り合いから聞いた話。
台風とか大地震が起こるといつまで経っても行方不明者ってゼロにはならないよね? あれって絶対に人数が合わないからなんだって。
……今『何言ってんのこいつ? 当たり前だろ』って思ったでしょ。多分あなたの思っている理由とは違うはずだから最後まで聞いてほしい。
確かに災害が起きた直後はインフラもズタズタだし連絡が取れない人も沢山いるから行方不明者ってのは沢山いる。しかし昨今の警察や消防、災害派遣される自衛隊の災害対応能力はすさまじく高く、数日もあれば大体の被災状況は把握できるし被災者情報も手に取るように分かってくる。
でも、その段階であってはならないズレが生じてくるそうなんだ。
例えば確認された死者数が八人で行方不明者が二名だとする。すると計算上は最大でも死者数は十人のはずだ。行方不明者は実際亡くなっているかどうかは分からないからね。あくまで最大数。
なのに次々と発見されるらしいのよ。遺体が。
最終的に災害死者数が十二人とか十五人とかになることもざら。これはほとんどの大規模災害でも起きる話らしい。つまり災害時には必ずと言っていいほど正体不明の遺体が出てくるわけ。そのほとんどは最後まで身元が割れることはない。身元につながるようなものは所持しておらず、指紋や歯の治療痕も消されている場合もある。土砂や瓦礫に削られたのか人為的に削られたのかなんて判別できない。まあ、こういう遺体がどんどん出てくるんだ。
すると災害救助をしている側でも実数を発表する訳にはいかなくなってしまう。行方不明者がゼロなのに捜索を続けていれば近所の住民から「一体何を捜索しているんだ」と思われてしまう。それに暫くして災害跡地から遺体が出てきたら辻褄が合わなくなってしまうしね。捜索においての最終的な目標は遺体を可能な限り回収する事に尽きるらしい。
だから途中から数字を操作して行方不明者数をずっと残しておく。いつまでも捜索が出来るように、いつ遺体が出てきてもいいように。
なんで知り合いがそんなに詳しいかっていうと、それこそ遺棄する側の人間だったからだ。睡眠薬なんかで眠らせてなるべくギリギリまで生かしておきその後被災現場で道具を調達し殺害する。本人も被災する可能性があるし、山奥に死体を埋めた方がいい気もするんだけど、それじゃあ不安になる人間がかなりいるんだってよ。いつ死体が見つかってしまうのかって。だから敢えて身元不明者として発見させるらしい。処理されてしまえば後は心配する必要はないから。それに噂じゃ上の人間もこういう事案に関わっている事が多いらしい。ほんと身分様様だね。
でもさあ、殺される側は絶対死んでも死にきれないよ。寝てる間に殺されて身元不明で処理されるって。
知り合いから聞いた話はこれでおしまい。
また聞きたくなったらいつでも僕を呼んで。
しばらくは彷徨ってると思うから。
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