054 ストーカーからの手紙

 全く身に覚えはないが俺にはストーカーがいるようだ。


 他人事の様に話しているが、そもそも日常生活の中でストーカーを感じたことは一度もないのだ。


 そんな俺が何故ストーカーの存在に気付いたのかと言うとズバリ郵便受けに入っていた手紙の存在である。


 俺が住む学生用アパートは道路に面した西側の壁に各部屋用の郵便受けがまとめて配置してある。上下階共四部屋ずつあるので八つの郵便受けが綺麗に並んでいるのだ。その中にある俺の郵便受けが事の発端なのである。



 二週間ほど前になるがバイトが終わって夜アパートに帰ると俺の郵便受けに三つ折りの便箋が入っていたのだ。それを開いてみると『ずっと好きでした。本当に大好きです』の文字と隙間びっしりに俺の名前……。便箋だけなのを見ると直接郵便受けに入れたのだろう。俺はたちの悪い冗談だと思い直ぐに破って捨てた。


 でも、その得体の知れない手紙はそれから毎日続いた。いかに俺のことが好きなのかとか、アルバイトをしている俺はかっこいいだの大学の授業で隣に座ったこともあるなど本当に事細かに書いてあった。最初は便箋だけの投函だったが二、三日もすると丁寧に封筒に入れられていた。封筒には何も書いていないので直接郵便受けに入れている事は理解できた。


 元々周りの事をあまり気にしない俺だが二週間も過ぎると段々と気味悪さを感じてきた。俺の事を嗅ぎまわっているやつがいるというのに俺が微塵も感づけられないと言うのも気味悪さに拍車をかけている。流石にここ数日は周りの人間に注意しながら生活してきた。


 そして今日、この手紙から解放される事が分かった。封筒は二通。最初に取った封筒には『振り向いてくれないようなのであなたを殺して私も死ぬ』との文字。これにはビビったが問題は二通目。封を開け、便箋を見ると『差し出す郵便受けをずっと間違っておりました。今までご迷惑をおかけして申し訳ございません』の文字。


 つまりストーカーはずっと郵便受けを間違えて俺に封筒を送り続けていたわけだ。そう分かった瞬間肩の力が抜けたのが分かった。アホなストーカーだな。つか、誰だよストーカーされてるやつ――そう思いながら便箋を破こうとすると玄関のチャイムが鳴った。スコープ越しに見てみると女の子が立っていた。確か……何度かしゃべった事はあるが、名前は思い出せない。いや……ああ、そういえば今日の講義のノート後で見せてって放課後話しかけてきたな――そんな事を考えながら俺はドアを開けた。

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