053 エレベーター

 日曜日、日用品の買い物が終わったのでマンションに帰る。部屋は十階なのでエレベーターを待つことにした。


 エレベーターが到着すると女の子と男の子が急いで降りてきた。女の子は隣の部屋に住む夫婦の子で面識がある。男の子は同じ位の身長なので見た感じは仲のいい友達のようだった。


「こんにちは。お出かけ?」

「うん! ママから頼まれておつかい行ってくるの!」


 女の子が満面の笑みで答え走っていった。男の子はその後を走って付いていく。ああ、やっぱり子供はいいなぁ、けどその前に結婚する相手がいないな、まじ羨ましい……そんな事を考えながらエレベーターに乗り込もうとした時、後ろから『ドンッ!!』と大きな衝撃音が聞こえた。


 後ろを振り返りマンションの外に出ると道路を二十メートル進んだ先にトラックが停まっていた。俺はトラックに駆け寄る。トラックの運転手は既に歩道に出て電話をかけていた。


「ええ……そうなんですよ……歩道に立っていた女の子が急に……はい……一人でした」


 会話を耳に入れながらトラックの十メートル程前方を見ると人が倒れていた。隣の部屋の女の子なはずだ。その子の周りには赤い液体が水たまりを作っている。女の子は助からないだろう……ピクリとも動かない女の子を見ながら俺はそう感じた。



 一ヶ月も経つとマンションは完全に日常を取り戻していた。事故直後、隣の夫婦は憔悴しきっていたが段々と日常を取り戻せて来たようだ。まあ俺の主観でしかないのだが。


 そんなある日曜日、俺は買い物に行くためエレベーターを待った。暫く待つとチャイムが鳴りエレベーターのドアが開く。中には男の子が一人乗っていた。いつも俯いており顔を見たことは一度もない。俺はその子に話しかける。


「おはよう。また頼むね」


 そして俺を一人乗せたエレベーターが静かに一階へと降りていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る