016 変質者
「めっちゃ楽しみだなぁ」わくわくした様子で知り合いが俺に話しかけた。
「ほんとほんと。まじ驚かせてやれよ」
「んで、そいつどんな人相なんだっけ?」
「ベージュのトレンチコートを着た六十位のハゲたおっさんらしいぜ」
「よしっ! 女装した俺が逆に驚かせてやるよ!」
そう言うと知り合いは着込んだ女物のネイビー色のトレンチコートをひらひらとさせる。トレンチコートの中は裸。頭にはウェーブのかかった茶髪のウィッグを被り、中性的な顔立ちも相まって暗い夜道では女にしか見えない。
「じゃあ早速変質者狩り、始めますか!」
俺がそういうとノリノリの知り合いは一人暗い夜道を歩き始めた。
十分程経ち、離れた場所から様子を見ていた俺に知り合いから電話が入る。
「……変質者、まだ、出ねえな」
「毎晩出るとは限らないからな。あと二十分して出なかったら今日は辞めようぜ」
「オッケー、分かった」
電話を切った直後、知り合いが男二人に囲まれたのが目に入った。距離は遠いが街灯の下なので服装はかろうじて分かる。水色のYシャツに紺色のズボンとチョッキ……俺が呼んだ警察官だろう。遠くて話声は聞こえないが、恐らくこのまま変質者として連行されていく。俺の彼女を取ったバツだ、ざまあみろ。
俺はそのまま家に帰り、風呂に入った。服を着ていたせいで汗をだいぶかいたからだ。風呂から上がり、丹念に体を拭きながら今日の出来事を思い返し思わず笑みがこぼれてしまった。
もちろん変質者の人相は出まかせ。こんな罠に簡単に引っかかるとはほんとに馬鹿なやつだ。俺の元カノもあいつに幻滅して別れるんじゃないだろうか――そんなことを考えながら袖に手を通す。
それにしても――変質者が捕まってくれて本当に良かった。これであの地域はしばらく安心だろう。これを機に警察の巡回も減るはずだ。
コートを着た俺は玄関のドアに手をかけた。
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