017 不思議な能力

 僕の不思議な力についてお話ししたいと思う。


 不思議、と言っても魔法が使えるとか空が飛べるとか、そんな大それたものじゃないんだけどね。実際、くだらない。


 用意するのは人が写った写真とペン一本。で、ペンで写真の顔に落書きをすると……何とびっくり、その人の顔にも実際に落書きがされちゃうんだ。


 え? 本当にくだらない能力? まあ、確かにそうだよね。僕もそう思ってる。


 ……ちょっと時を戻そうか。最初にこの能力に気付いたのは先月始めだった。いつも僕をいじめる同級生がいるんだけど、その日は学校帰りランドセルをひっくり返されて中身を全部池に投げ捨てられたんだ。本当にひどいよね。


 だから僕はめちゃくちゃイライラして家にあったあいつの写真にいたずらをすることにしたんだ。校外学習やら学年通信やらであいつの顔が載ってるものなんて沢山あるからね。

 で油性ペン片手に作戦決行。瓶底眼鏡に口ひげを蓄えさせて、顎髭は胸元辺りまで伸ばし先端はリボンで束ねてあげる。少し伸びた襟足をずずーっと腰まで延長させてあげる。眉毛はもちろんつながり眉毛。修正液があれば額からてっぺんまでつるっつるにしてあげれたんだけど、それは今後のお楽しみにとっておく。


 いやあ、これが本当に笑えた。夕ご飯の時も思い出してニヤニヤしちゃったし、寝る前も何度も見て腹をかかえて笑ったよ。


 そして次の日、大変なことが起こった。僕の能力が開花してしまったんだ。つまり、いじめっ子の顔が僕の落書き通りに変わっていたんだ。それを見た時、笑いなんか起きなくて素直に“ヤバイ”って思ったよ。そりゃあ僕が直接書いた訳じゃないし、理屈や原理も分からないけど、“原因は僕にある”事は何となく分かったからね。

 でも、何よりも驚いたのは周りはおろか本人も何も気にしていないこと。まるで最初からその顔だったかのように周囲に自然となじんでいた。変な顔に見えるのは僕だけの錯覚かな、とも思ったんだけど放課後殴られてるときに顎髭を掴んだら普通に触れたし、その後あいつリボンを結び直してたからあの顔は間違いなく現実なんだと分かった。


 僕はそれから何日もかけて実験をした。それで分かったのは、色ペンでも鉛筆でも僕が書いたように顔が変化すること、皆その変化に気付かないこと、他の写真に落書きをするとそっちの最新の落書きが優先されること、それに……カッターなんかで付けた傷も反映されることが分かった。いろんな人に実験したんだけれど、カッターの実験はもちろんいじめっ子に実験台になってもらった。次の日学校で会ったときはびっくりしたよ。だって頬から上がないんだもん。授業中先生から当てられて「すいません、俺、頬から上が無いので問題が見えません」って、あれは笑ったな。先生も先生で「そうだったそうだった」って頭をポリポリ掻いてるし。でも、そんな状態でも僕をいじめてくるからほんとにあいつは大嫌いだ。あと、そうそう、僕の能力は首から上にしか発動しないのと、切り取ったパーツを貼り合わせればちぐはぐな顔も作れること。分かったことは大体これで全部かな。もちろんフランケンシュタインもいじめっ子が第一被験者だ。


 まあ、そんなこんなでこの一ヶ月自分の能力を調べつつ楽しんだわけなんだけど、ここで最後の実験に入りたいと思う。


 最終実験は僕とあいつの“顔を入れ替える”こと。いや、正確には“体を入れ替える”ことになる。これも実験で分かったんだけど、顔をミックスさせた場合顔の割合が大きい奴が主人格になるみたいなんだ。つまり、首から上をソックリ入れ替えれば実質体を入れ替える事になるわけだ。身長一三八センチ体重三〇キロの僕が身長一五〇センチ体重五〇キロオーバーのあいつに喧嘩で勝てるわけがない。僕がいじめられる側に徹しているのはこれが大きい要因で体さえ交換出来れば僕がいじめられることはなくなると思う。きっとそうだ。


 僕とあいつの写真を一枚ずつ、それとカッターを一本取り出す。……準備は万端だ。はやる気持ちを抑えて、僕は写真の端にカッターの先端を、そっと、押し当てる。心臓が高鳴る。自分の荒い鼻息が聞こえる。五秒、十秒……カッターの刃を押し当てたまま僕は動けないでいる。こんなに緊張するのはいつ振りだろう。あれかな? クラスの女の子に消しゴムを借りた時以来かな。それか学校のトイレで大をする時以来? そんなクダらない事を考えていたらすっかり緊張がほぐれてきた。よしっ、あとは一気に写真を切るぞ。


 僕は一気にカッターを走らせた。





 ……あれっ?




 ……


 ……

 …………

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