最終話 ありがとう

太陽がジリジリと身を焦がす。

額からは汗が溢れてくる。

俺はポケットからハンカチを取り出し、汗を拭う。

新たに影になったところに移動し、汗拭きシートで体を拭く。

時計を見ると、9時50分を針が指していた。

もうすぐか……


美羽湖と付き合ってから3ヶ月がたった。

美羽湖のおかげでたくさん友達ができた。

朝出会ったら一緒に登校したり、一緒に食堂でご飯を食べたり。

俺の毎日はとても充実していて、本当に楽しい。

美羽湖とは、放課後一緒に帰ったりした。

そして、ついこの前初めて手を繋いだ。

俺の人生は180度変わり、幸せ以外の言葉が見つからないほどだ。


そして今日は、人生初デートだ。

まだ美羽湖と会っていないのに心臓が激しく動いている。

今週、ネットを使って色々調べたからなんとかなるとは思うけど……

今日行くところは、水族館らしい。

本当に楽しみだ!


そんなこんなで待っていると、少し遠くから髪とワンピースを揺らしながらこっちに走ってくる美少女が視界に入った。


「龍司〜ごめん、待った?」


美羽湖は俺の目の前で止まり、息を切らせながら上目遣いでそう言う。


「い、今きたとこだから……」


俺の心臓はますます加速していき、今にもはちきれそうだ。

俺の言葉を聞き、美羽湖は安心したように微笑む。


「良かった〜じゃあ、行こ!」

「おう!」


歩くスピードを上げ、少し前を歩いていた美羽湖の隣に並ぶ。

俺は恥ずかしながらも美羽湖の手に自分の手を重ねる。


「今日も……その……可愛いぞ……」

「へっ?!」


顔を真っ赤に染め、美羽湖は顔を逸らす。


「ず、ずるいよ龍司……」

「何がだ?」

「な、なんでもありませーん!」


あれ?俺怒らせちゃった?!

不安になり美羽湖の顔を覗き込む。


「な、何?!別に怒ってないから……あんまりじっと見ないで欲しいって言うか……その……恥ずかしい……」


か、可愛い……

俺はこんなに可愛い子と付き合っていいのだろうか?!


「あ、すまん……」


そこから少し無言の時間が続いた。

この気まずい空気は変えたいな……


「「あのさっ」」


どうやら美羽湖も同じことを思っていたらしく、ハモってしまった。

お互い顔を見つめ、なんだかおかしくなって笑いが出てくる。


「「あははは!」」

「龍司からどうぞ」

「いや……なんて言うか決めてなかったわ」

「なにそれ〜……って、私もだわ……」

「俺たち、似たもの同士かもな」

「そうかもねっ!」


気まずい空気はどこかへ飛んでいき、俺たちは他愛のない話を楽しみながら目的地まで向かった。


水族館に着き、入場料を払いゲートを潜る。

中は薄暗く、水槽がきれいにライトアップされていた。


「うわ〜きれいだね」

「そうだな」


俺には魚たちよりも目を輝かせて水槽を見つめている美羽湖の方がきれいに見えた。


一通り見終え、俺たちはお土産コーナーに入った。


「見て見て龍司!これ可愛くない?!」


ペンギンの被り物を被った美羽湖がなんだか嬉しそうに俺の方にやって来た。

幼気の入った美羽湖はやばいくらいに可愛かった。


「あ、ああ……すげー可愛い……」

「本当に?!じゃあ買お〜」


そう言ってかごに入れた。

家に遊びに行ったらあれが見られるのか〜

買い物をする美羽湖を見るだけで俺は楽しかった。


水族館を出て俺たちは昼飯を食べに行った。

美羽湖がパスタが好きだと言っていたので割と人気のパスタのお店を予約していた。

とても喜んでくれたので本当に嬉しかった。

そのあとは近くのユニキュロで互いに服を選び合ったりして楽しい時間を過ごした。

気付けばあたりは夕日色に染まっていた。


集合場所だった駅に着いた。


「じゃあ……今日はありがとね!楽しかった!」

「ああ……」

「どうしたの?」


俺は、今日の日のために用意したものを鞄から取り出した。


「これ……」

「え?私誕生日まだまだ先だよ?」

「いや、知ってるよ……別に、深い意味はないけど……じゃあ、初デート記念ってことで」

「絶対今思いついたでしょ〜ありがとう!開けてもいい?」

「あ、ああ……」


美羽湖の手に箱を渡す。

美羽湖は丁寧に箱を開けていく。

喜んで貰えるだろうか……

なんだかすごく緊張する


「綺麗……」


箱の中を見て、そう呟いた。

嬉しそうな表情だったので、なんだかホッとした。


「ありがと龍司……付けてもらってもいい?」

「おう」


箱から細いネックレスを取り出し、美羽湖の細く綺麗な首の後ろで金具を留める。


「ど、どうかな?」

「うん。すげー可愛いぞ」

「えへへ……ありがとね!……私なにも準備できてないけど……」


そう言ってなんだか申し訳なさそうに俯く美羽湖を俺は気付けば抱きしめていた。


「なに言ってんだよ……美羽湖は俺の人生を救ってくれただろ?そのお返しは一生かけても返せねえよ……」

「……じゃあ……一生かけて私を幸せにしてくれる?」

「えっ?!……ああ。幸せにしてみせるよ」

「ふふっ……龍司、目、瞑って」

「え?分かった……」


俺は言われた通りに目を瞑る。

すると、俺の唇に柔らかい何かが触れた。

それが何かは、さすがの俺でも分かった。

俺は閉じていたまぶたを開ける。

美羽湖はえへへ……

と顔を真っ赤に染めていた。

そんな彼女を見て、我慢はできなかった。

俺は、自分の中で美羽湖を一生幸せにすると誓い、唇を重ねた。



ーーーーーーーーーーーーーー

「龍司早く〜」

「お父さん行くよ〜」


俺は少し重たいまぶたを開ける。

いつの間にか寝ていたようだ。

なんだか昔の夢を見た気がする……


「今行くよ〜」


腰を上げ、愛する妻と娘のところに走って向かう。


高校生の時、俺は学校一の美少女を救った。

そして彼女は、俺の人生を最高のものに変えてくれたのだった。




〜あとがき〜

読んでいただきありがとうございます!

読者様から、2人の先を見たいという大変嬉しい言葉を頂いたので1話伸ばさせていただきました。

結果的に、この1話を書いたほうが良かったなと思えるようなものが書けたので良かったです!

これからも、新しい作品を書いていくのでよろしくお願いします!






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ヤクザの息子の俺、学校1の美少女を救ったら俺の人生が救われた メープルシロップ @kaederunner

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