第6章 人体実験メイドメイデン 第4話『谷』

「それでは最終実験に移ります♪」

「あぁ。成功を祈る」

 オリヴィエは楽しそうにぴょんぴょん跳ねながら、理科準備室を後にした。


 ノエルが目を覚ますと、視界いっぱいに断崖絶壁の谷が見えた。

「ひっ?!」

 思わず悲鳴を上げる。

 手足は縄で縛られ、谷に架かっている橋の欄干と繋がれていた。頑丈な石で作られているノルン橋とは違い、縄と板のみで作られたボロボロの橋だ。

「目ぇ、覚めた? ノエルちゃん」

 オリヴィエは橋の上からノエルを見下ろし、ニヤニヤと笑った。

 彼女の首には黒百合のロザリオがかかっていたが、ノエルにはオリヴィエがシスターに忠誠を誓っていないことは分かっていた。

「オリヴィエ、先輩。どうして貴方がそのロザリオを持っているの?」

「あら、無理しなくていいんですよ、ノエル。貴方、本当はパラケルスス先生と同い年なんでしょう?」

 ノエルはハッと目を見開いた。

「どうしてそれを……」

「パラケルスス先生がおっしゃってたんですよ。ノエル先輩と同姓同名で、瓜二つの顔をした同級生が昔いたって。ずっとノエル先輩の親戚だと思ってたらしいんですけど、今回のことがあって改めて調べたら、そんな親戚はいないと分かったそうです。しかも、当時のノエル先輩は生死不明のままだった……シスターから不老の魔法でもかけてもらったんですか?」

「……私は選ばれたのよ。彼女の語り部に」

 ノエルはオリヴィエの指摘を受け入れ、真相を話した。

「シスターホーリィが監禁されては、いずれ生徒達は彼女のことを忘れてしまう。私にはそれがどうしても許せなかった……あの方が惨劇を起こしてくださったおかげで、私はいじめから解放されたんだもの。だからシスターに祈ったの。私を語り部として永遠に生かして欲しいって。シスターはすぐに私の願いを聞き届け、永遠の若さと生命を与えて下さったわ」

「シスターが復活した後、理科学倶楽部の部員を引き入れたのも貴方?」

「そうよ! シスターから直々に命じられたの! パラケルススから生徒を引き離しなさい、とね! 残念なことに、貴方はこちらへは来てくれなかったけど」

 ノエルは意味深にオリヴィエに目をやる。

 オリヴィエの目的は分からないが、芳しくない状況なのは間違いない。そして、この状況を企てたのはパラケルススなのだろう。

 ならば、オリヴィエをなんとかして聖女倶楽部へ引き入れれば、この絶体絶命の状況を打破できるかもしれない、とノエルは考えていた。

「どう? 今からでもうちに来ない? 今なら貴方の願いを何でも聞いてあげるわよ」

「何でも? 本当に?」

「えぇ。私を助けてくれるのならね」

 オリヴィエは「んー」と考えた末、こう言った。

「じゃあ、今すぐ服を捨てて(自主規制)しながら(自主規制)と(自主規制)を(自主規制)してくれる? あと、私の(自主規制)と二十四時間(自主規制)と(自主規制)を(自主規制)したまま(自主規制)するのもお願いね! もちろん、その様子はカメラに収めさせてもらうわ!」

「そ……そんなおぞましいこと、出来るわけないじゃない!」

 一介の女学生の口から出てくるとは思えない卑猥な単語の嵐に、ノエルは青ざめ、震える。

 オリヴィエは「えー?」と不満そうにむくれ、唇に指先を当てた。

「何でもやってくれるって言ってたじゃーん」

「やるとは言ったけど、それじゃリスクが大き過ぎるのよ! 大体、写真に収めるなんてダメに決まってるじゃない!」

「そう? こうして後から見られて、面白いのに」

 そう言うとオリヴィエは鞄から何枚か写真を取り出し、扇形に広げてノエルに見せた。

 そこには全裸のノエルが(自主規制)しながら(自主規制)と(自主規制)を(自主規制)している様子と、オリヴィエの(自主規制)と思われる(自主規制)と(自主規制)している様子が写されていた。いずれの写真でも、ノエルは眠ったままでいた。

「な……何、それ。私のそっくりさん? じゃなきゃ、合成? い、一体、いつの……?」

 ノエルは顔面蒼白で、オリヴィエに尋ねた。今さらながら、体のあちこちに違和感を感じた。

 オリヴィエはにっこりと笑い、答えた。

「そっくりさんでも合成でもなく、。先輩が眠ってる間に、本当に不老不死なのか試させて頂きました。それにしても、先輩の(自主規制)と(自主規制)って意外と(自主規制)なんですね。でも、(自主規制)は綺麗でしたよ。うちの(自主規制)達も喜んで(自主規制)を(自主規制)してました」

「いやぁぁ! 殺して! 今すぐ私を殺してぇ!」

 ノエルはそれまでの強気な姿勢を崩し、泣き叫ぶ。こぼした涙は遥か眼下に流れる川へと落ちていった。

「いいんですか? 殺しても。最後に私かシスターホーリィと(自主規制)させてあげてもいいんですよ?」

「嫌だぁ……早く死なせてよぉ……こんな汚れた私を、これ以上生かさないでよぉ……」

 見た目通りの生娘のような反応に、オリヴィエは「可愛いなぁ」とほっこりした。

「いつもなら屋敷にお持ち帰りするんだけど、今日は実験のために連れて来たから殺すね。あーあ、もったいない」

 オリヴィエは指輪から針を出すと、ノエルの首の後ろに刺した。

 ノエルは「い゛っ」と顔を歪め、鳥人間へと変わっていく。彼女が暴れるたびに橋はぐらぐらと左右に揺れた。

「こりゃ、早く退散しないとやばいな。じゃね、ノエルちゃん。最後に貴方のあられもない姿がいっぱい見れて、楽しかったよん」

 オリヴィエはノエルを放置し、橋から撤退する。

 オリヴィエが橋を渡り切ったと同時に橋を支えていた縄が千切れ、橋は崩れた。残されたノエルは全身に羽根を纏ったまま、谷底へと真っ逆さまに落ちていった。

 双眼鏡を使って谷底を覗き込むと、ノエルは岩で後頭部をぶつけ、血溜まりの中で息絶えていた。

「実験、終了! 不老不死にも天使薬は効果ありっと。ノエル先輩の死体を回収して、かーえろっ!」

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