第3章 天使薬デスティニー 第1話『川』
「一目惚れでした。付き合って下さい」
サマンサは川の辺りで、親友のシルヴィから告白された。
「……ごめん。私、シルヴィのこと、友達以上には思えない」
当然、サマンサは断った。一番の仲良しである親友を拒絶したくはなかったが、自分の気持ちに嘘はつけなかった。
「……っ!」
シルヴィはショックを受けた様子で、青ざめた。そしてそのまま川へ走っていった。
「シルヴィ?!」
サマンサも慌てて追いかける。
川は幅が広く、深いところは足がつかないほどだった。実際、毎年数人は事故で溺死していた。
「待って! 何をする気?!」
「……サマンサと結ばれないなら、生きている価値なんてないわ」
シルヴィはどんどん川を進んでいく。
やがて足がつかなくなると、静かに水底へ沈んでいった。
「シルヴィッ!」
サマンサはシルヴィを助けるため、息を目一杯吸い込んで、潜った。
川は緑色に濁っている上、伸びきった藻で視界をさえぎられていた。サマンサは藻をかき分け、懸命にシルヴィを探した。
「シルヴィ! どこにいるの?!」
呼吸を整えるため、一旦浮上した。
周囲を見回し、シルヴィに呼びかける。しかし彼女の姿は見当たらなかった。
誰もいない川辺に、サマンサの声だけが虚しく響き渡る。
その直後、
「ゴボッ?!」
サマンサは足を引っ張られ、水中へ引き戻された。振り返ると、シルヴィがサマンサの足をつかんでいた。
(シルヴィ……?! 何をしているの?!)
サマンサは訳の分からないまま、シルヴィに引き寄せられ、抱きつかれた。彼女の手足で体を拘束され、身動きが取れない。
二人は静かに水底へと沈んでいく。見ると、シルヴィの手足にはいつの間にか重りが取り付けられていた。
シルヴィはサマンサの耳元へ口を寄せると、ささやいた。
「サマンサと結ばれないなら、生きている価値なんてないわ。でも、サマンサが他の誰かと一緒になるのも嫌なの。だから一緒に死んで、天国で結ばれましょう?」
そう微笑むシルヴィの目は、サマンサが知る彼女の目ではなかった。
翌朝、サマンサとシルヴィは通りがかった女子生徒によって、岩場に打ち上げられているところを発見された。
二人は既に事切れていたが、死してなお、シルヴィはサマンサの体に抱きついていたままだった。
「無理心中かな? ずいぶん仲が良かったんだな」
二人を見つけた青髪の女子生徒は何かを企んでいる様子で微笑むと、近くの公衆電話から電話をかけた。
「もしもし、パラケルスス先生? いい実験体を見つけたので、車を手配して頂けますか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます