第2章 金糸雀幽閉リモデリング 第1話『沈黙』
カナリアはアクセサリーが好きだった。学校にも必ずピアスやネックレス、ブレスレットをつけてきた。
友人のキャロラインとクララはカナリアのアクセサリーを褒め、羨ましがった。
「いいなぁ、私もカナリアみたいな大人っぽいアクセサリーが欲しい」
「私も。お小遣いを前借りしなくっちゃ」
「ふふっ、ありがとう」
カナリアは二人……特に、密かに想いを寄せているキャロラインに褒められると、とても嬉しくなった。
キャロラインは同級生とは思えないほど大人っぽく、アクセサリーを身につけずとも美しかった。
(キャロライン……どうか私を愛して、私のモノになって頂戴)
カナリアは心に秘めた願望を黙したまま、満足そうに微笑した。
学年合同で行なう体育の授業の前、カナリアは更衣室で着替えていた、別のクラスの生徒が身につけているネックレスに心惹かれた。
耳と同じくらいの大きさの、三日月型のエメラルドがついたネックレスで、深い緑の輝きが魅力的だった。
その生徒はネックレスをロッカーに仕舞うと、体操着に着替え、更衣室を出て行った。聞き間違いか、生徒はロッカーを閉める直前「また後でね」とネックレスに声をかけていた気がした。
ロッカーに鍵はかかっていない。カナリアは隙を見て彼女のロッカーからネックレスをくすね、何食わぬ顔で自らの鞄へ仕舞った。
体育が終わると、カナリアはおしゃべりもそこそこに、更衣室で着替え、荷物を持って教室へと帰った。教室にはまだ誰も戻ってきてはいなかった。
カナリアは先程盗んだネックレスを首につけ、鏡で見てみた。すると、エメラルドがモゾっと動いた気がした。
「え……?」
反射的にネックレスへ視線を落とす。気のせいだと思いたかったが、確かに動いていた。
「いっ、いやぁっ!」
カナリアは急いでネックレスを外し、床へ叩きつけた。
硬質なはずのエメラルドは床に当たって潰れ、中から真っ赤な液体が流れ出てきた。鉄くさい臭いが立ち上る。まぎれもなく、人間の血液だった。
「何なの?! 何なのよぉっ!」
「それはね、エルサの魂よ」
その時、背後から声が聞こえた。
振り返る間もなく首に腕を回され、絞められる。
「あっ、ガッ……」
カナリアは悲鳴を上げる暇もなく意識を失い、沈黙した。手足がダラリと伸び、背後にいたオリヴィエへと寄りかかる。
オリヴィエは鬱陶しそうにカナリアを退けると、潰れた蛹を血と一緒に手ですくった。
「エルサ……ごめんなさい。貴方を守れなかった。貴方との初夜、楽しみにしてたのに。残念だわ」
オリヴィエはエルサの残骸をビーカーに入れ、きちんとフタをすると、今度こそ盗まれないよう、スカートのポケットに仕舞った。
そして床に突っ伏しているカナリアの首根っこをつかむと、首が絞まるのも構わず、ズルズルと引きずって行った。
「さて……お前は今日から私の実験体よ。もう二度と、この学び舎を見せてあげないわ。休むことも、沈黙することも許してあげない。夜通し泣き喚いて、悶え苦しむといいわ」
オリヴィエはカナリアに施す実験を想像し、舌舐めずりをした。
カナリアが行方不明になったその夜から、理科室から絶えず、女子の悲鳴が聞こえるようになった。やがてその悲鳴は嬌声へと変わり、最後には何も聞こえなくなった。
助けを求め、泣き叫んでいた彼女は、一向に助けが来ないことで諦め、口を閉ざしたのかもしれない……。
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