√4 最期

 どの世界線においても、僕はフラれる運命にある。


 フラれる瞬間までは複数の世界線があるが、そのすべてのルートはここに帰結するようになっているのではないのか。


「結局、僕ではダメだったということなのか」


 手汗を治し、センスを磨き、服装を整え、身なりを気にし、趣味を合わせ、勉強し、筋トレをする。


 これまで試したことは、すべて無駄だった。


 運命。


 それは人間が抗えるものではなかった。


 どれもこれも、この時計をくれた老婆のせいだ。


 変に希望を持たせたあの占い師のせいだ。


 こうなったら、あの占い師に出会った日まで戻って、すべてなかったことにしてやろう。


 そう思った僕は、握っている時計の針をぐるぐると巻き戻した。




 ザアザアと波の音がする。


 服から露出している肌に感じる、砂の感触。


 暗い夜に、微かに当たる夜風。


 どうやら僕は寝転がっているらしい。


「どうしてこんなところで」


 あの時は歩いてここまで来たはずなのに。


 しかし、違和感はそれだけではなかった。


 握っていたはずの時計もなかった。


「あれ、ない、ない!」


 ポケットにも砂浜にも落ちていない。


 僕はしばらく辺りを探したが、どうせこれで最後だと思い、前回占い師のいた場所まで行った。


 砂浜は足を吸い込み、僕の体力を着々と奪っていった。


 こんなに遠かっただろうか。


 先ほどから謎の頭痛にも襲われている。


 数十分、やっとのことで占い師がいるところまでたどり着いた。


「こんばんは」


 のんきに前回同様、椅子にゆったり座っている。


 僕はどこから話そうか迷ったが、簡潔に伝えることにした。


「あなたのせいで、無駄な希望を持ってしまったじゃないか」


 占い師は、ピクリとも動かず、ただ僕の顔を不思議そうに見つめていた。


「な、何か言ったらどうだ!」


 僕がそう声をあげた直後、占い師から信じられない言葉が出たのだった。


「なんの話です?」


「なっ!」


 この老婆、ここにきて僕をからかっているのか?!


「何の話って、あなたが僕を占った結果、へんてこな時計を渡して彼女を取り戻せと」


 僕が彼女といったところで、自分でも何か違和感を感じた。


 その違和感の正体は、この老婆が解明してくれた。


「私の占いだと、貴方、彼女いませんよね?」


 がらがらの声が、僕の心臓を打つ。


 記憶を遡ってみるが、彼女の顔を思い出せない。


「あれ、おかしい!」


 確かに僕は彼女とデートしたり、食事したり、楽しい時間を過ごしていた。


 なのに、どうして!


「時に人の妄想は、幻覚までみせるのかねえ~」


 老婆は呑気にそんなことを言っている。


 信じられない。


 じゃあ僕は、今まで存在しない彼女に何とか好かれようと、必死に頑張っていたというのか。


 こんなの、あんまりだ。


 僕はそのまま砂浜にかがみこんだ。


 そして、最後の希望にすがる気持ちで、老婆に頼み込んだ。


「どうか、僕に彼女をください!」


 我ながら、気持ちの悪い男である。


 しかし、僕が顔をあげたときには、そこには誰もいなかった。


「あれ・・・」


 ただそこには、砂浜と波の音だけがあった。


 そして、お金はきっちり抜き取られてあった。

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タイムパラドクスな八畳大学生の恋 夜凪ナギ @yonagi0298

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