恐怖心
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、本日最後の授業が終わったことを告げる。
俺は教科書を鞄にしまいながら、放課後何をしようかと思考を巡らせていた。
(バイトが急になくなったからな。加藤や有馬とは予定合わせられないし、どうしようか?家でゴロゴロするのはいつも通りだし)
急に休みを貰って困惑する社会人のように、俺は何をしようかと頭を悩ませる。
勉強は授業中に先々とやっているので、やらなくても問題ない。運動もこの間の球技大会でサッカーをしたから気分じゃない。ゲームをしたり、漫画を読んだりはいつも通り過ぎて味気なく感じてしまう。
最近は水瀬のことばかり考えていたから、いざ自分のことになるとよく分からなくなってしまっている。
(まぁ、とりあえずゆっくり帰りながら考えるか)
今日はSHRが無いためこのまま下校出来る。その最中に、何か良い案でも思い浮かぶだろうと鞄を持って席を立ち上がった。
すると、そのタイミングで水瀬から声を掛けられた。
「奏君。一緒に帰ろ?あっ、今日シフト入ってたっけ」
「大丈夫だ。店長から昼今日は休みって連絡来たから。問題ない。……って、何ニヤニヤしてんだよ!黒瀬」
「いやぁ、なんか湊川が小鳥のことを自然ともう受け入れちゃっててカップルみたいだなぁって」
「なっ!?」
「えへへ。りんちゃん。そんな、カップルだなんて照れるよ〜」
黒瀬の指摘に俺は頬を紅潮させ俯いたのに対して、水瀬は嬉しそうに頬を緩ませた。
「……」
「おや、否定しないということはまさか」
「まだ、ちげぇよ!」
からかってくる黒瀬に咄嗟に言い返せなかったのは、今日の出来事を振り返ってみて否定できるところが全くなかったから。だから、一瞬反論するのが遅れたのだ。
俺はこの場にいると、黒瀬に弄られるのは分かっているので二人の横を足早に通り抜け、教室を後にした。
小鳥視点
「まだって、ことはいつかはなってくれるってこと。えへへへ~」
先ほどの奏君が言った言葉が脳内で何度も再生され、私はだらしなく頬を緩ませてしまう。だって、仕方ないもん。好きな人が私のこと意識してくれていると分かったんだから。誰だって嬉しくなるのしょうがない。
(カップルになったら~、海に行ったり、お家でホラー映画を見て奏君に抱き着いたり、そのままベッドまできゃあぁぁぁぁ!エッチすぎるよう。でも、奏君となら私は全然してもいいかなぁ)
「えへへ~」
「おーい、小鳥。愛しの奏君が教室を出て行ってしまったけど、追いかけなくていいのかい?」
「はっ!?気づかなっかった。いつの間に奏君がいなくなってる」
ひらひらと顔の前で手を振るりんちゃんに声をかけられ、私はトリップ状態から戻ってくると奏君の姿がいつの間にかなくなっていることに気づいた。
「追いかけないと!ありがとう、りんちゃん」
「いえいえ、頑張るんだよー」
ニコニコと嬉しそうに笑うりんちゃんに見送られ、私は急いで教室を出て奏君を追いかける。
一緒に朝登校して、あーんもしているから、今日やりたいと思っていたことは殆ど出来たから私は満足している。
でも、これじゃあ駄目なことを私は知っている。
目標が達成できて満足して、一度立ち止まってしまったらすぐに他の人に追い抜かれてしまう。なっちゃんの時みたいに。
もう、私は誰にも負けたくない。あんな惨めな思いをしたくない。
そんな恐怖心を抱え、私は足を必死に前へ進める。
「いた」
正門を通り抜け学校を出てすぐにある歩道橋で奏君を見つけた。急いで奏君の元へ向かう。
「奏君!」
「うおっ、水瀬!?」
愛しい人の名前を呼び飛び込む。そして、強く強く抱きしめた。
「一緒に帰ろう」
今度こそ、ハッピーエンドを迎えるために。
絶対に君を堕としてみせるから。
あとがき
小鳥ちゃん視点ないなーと思いまして書きました。
負けることへの恐れ。そんな不純な原動力も人を突き動かす要因の一つとして、ありなのかなって個人的には思ってます。
次回は正月ssを上げます。クリスマス書いてるんで。要望があれば何かしら書きます。
後宣伝になりますが、新作ラブコメを投稿しました。
こちらも恋に対して、悩み考え向き合う不器用な作品です。この作品が好みの方は刺さると思いますので宜しければ見てください。ちなみに初手から糖分は多めです。
『機巧人形:マシンドール』でも、幼い頃から一緒に居れば幼馴染と言えますか?
https://kakuyomu.jp/works/16816700429490460468/episodes/16816700429576177474
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