第3話 普通の恋
「黒瀬や坂柳とは食わないのかとか、どうして急にとか聞いても無駄なんだろうな。分かった。購買で飯買ってくるから「あのさ!私奏君のお弁当も作って来ちゃったから買わなくてもいいよ」さいですか。じゃあ、適当に人が居ない場所探すか」
「うん!探そう」
水瀬は俺が一緒に食べるのを受け入れた瞬間、顔をパァッと輝かせ嬉しそうに俺の横に並んだ。
初めて向けられる恋愛的な好意。長年向けられたことのないものに、俺の中で戸惑う気持ちが大きい。◯んぜもあの時こんな気持ちだったのかと俺は思いながら、水瀬と昼食を静かに食べれる場所を探すのだった。
◇
「ここが良さそうだね」
「そうだな」
俺達がやって来たのは日の光がよく当たる体育館裏。小説とかでよく登場するイメージがあるが、実際行くような奴はいないだろう。その証拠に、俺達二人以外誰も姿は見えない。
体育館入り口にある謎の段差に並んで越し掛ける。
「はい、これ奏君のお弁当ね」
座った瞬間水瀬は弁当入れから、水瀬の弁当箱より少し大きめの弁当を取り出し俺に手渡す。
「ありがとな」
「どういたしまして…って、言うのも変な気がするけど、勝手に私が作って来ただけだから」
申し訳なさそうにしながら「ごめんね」と水瀬が謝る。
少なくない時間彼女と接してきた俺には分かる。この表情は自己嫌悪に陥っている時の顔だ。
「別に謝る必要はないぞ。弁当を作ってくれたり朝一緒に登校しようとしたのは俺のことを少なからず考えてくれたからだろ?だから……今は戸惑う気持ちや過去を思い出して辛い気持ちの方が確かに大きいけど、少なからず俺は嬉しいって思ってる。から…その…なんて言うか、昨日水瀬が言ってたじゃん。恋愛って綺麗な物じゃ無いんだって。なら、俺の過去を乗り越えさせるためっていう建前を利用するのは普通なんじゃないか?……と俺は思う」
俺が自分の過去を乗り越えるために、あの子より自分のことを好きになってもらう。というのを、俺が理解しているから水瀬は迷惑だと思っても断れないんじゃないかと不安になったり、建前がないと積極的に動けない自分に嫌気が差しているのだろう。
でも、これって俺は普通のことだと思う。好きなあの子に近づくために何か理由をつけることなんて、よくあった。そんな風にしか出来ない自分を自己嫌悪したことも。
そのことを伝えたっかたんだが、これが凄く恥ずかしい。客観的に見ると、自分が水瀬の全てを分かっていると思っているナルシスト。これが間違っていたら、穴に入って一生そのままでいたい気分だ。
俺は全身が羞恥心で火照らせているのを悟られたくなくて、水瀬から視線を逸らす。
数秒後、水瀬が息を漏らすと後ろから抱きついてきた。
「なっ!」
突然の出来事に俺は驚きの声を上げる。
「……本当何でいつもいつも分かるかなー奏君は。ずるいよ。こんなのもっともっと好きになっちゃうじゃん」
小さく呟くと水瀬はさらに抱きしめる力を強める。
そうされると当然彼女の柔らかな部分が俺の背中に押し付けられるわけで、ただでさえ早まっていた心臓の鼓動が加速し、全身から煙が出るんじゃないかと思うほど体温が上がっていく。
(ヤバイ、早く離れないとどうにかなりそうだ)
水瀬の頰の感触、甘く柔らかな花の香り、俺たちの身長差、今まで抱きつかれることはあったが、こんなシュチュエーションではなかったため、今まで意識したことのなかった部分を意識してしまう。そのせいで今も離れようとしているのだが、緊張しているせいか体が石のように硬く言うことを聞かない。
「水瀬、その離れてくれると…」
ならば、水瀬に離れてもらうしかないと思い離れるよう頼む。
「もうちょっとだけ。このままでいさせて」
が、それは俺とまだ触れ合っていたい水瀬によって却下され、俺は彼女が満足するまで耐えるしかなくなった。
水瀬が腕を解いたのは時間にして二分後だったが、その時間は俺にとって何十時間にも感じられた。
あとがき
奏君のツンデレ回です。需要はあるかは知りませんが砂糖の錬金が止まりませんでした。ヤバイです。書いててダメージをもらいました。
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