第2話 お昼一緒に食べない?


「水瀬さ、そろそろ離さないか?」


「嫌…」


「嫌って……」


学校が近づいて来たところで、チラホラ前の方に俺達と同じ制服を着ている男女がチラホラ見えて来た。同じ学校の奴らに今の状況を見られるのは恥ずかしい。

 水瀬に手を離すよう頼むが、彼女は俺の手を硬く握ったまま不機嫌そうにそっぽを向く。チラッと見えた彼女の頰はほんのり紅く染まっていた。


(恥ずかしいんなら止めてくれよ)


 そんなことを考えながら、俺はせめてもの抵抗で周りから手を繋いでいるのが見えないように内側ギリギリを寄って歩く。


「…ふふっ、やっぱり優しいね」


 突然水瀬が急に笑い出し、俺のことを優しいと褒めてくる。


「は?いや優しい要素ないだろ今」


 何処に優しいと言われる所があったのか分からなかった俺は、どういう意味だと水瀬に視線を向ける。


「会話ではないよ、行動からそう思ったの。さりげなく車道側から反対側に私を歩くようにしてたり、歩幅を合わせてくれてたり、私の手を無理矢理振り解かないところを見て優しいなぁ〜って」


 そう言って、嬉しそうにニヘラと笑う水瀬。


「〜〜〜!?…もういいだろ」


 嬉しさや恥ずかしさなんかが混ざり合った何とも言えない感情によって、背筋のむず痒さが形容範囲を超え水瀬の手を振り解く。


「照れてる奏君って可愛いんだね。新たな発見だ」


「知るか!俺は先に行くからな」


「あっ」


そう言い残して俺は水瀬を置いて足速に歩道橋の階段を駆け上がった。



 ドアをガラガラと音を立てながら開け、教室の中に入ると何人かの奴らと目が合う。その内の一人である有馬がこちらにニヤニヤとしながら近づいて来た。


「よう、ミナ」


「なんだ、その顔を気持ち悪いから近づくなよ」


「まぁまぁ、そんなこと言わないでよ〜。教えてくれよ〜お前と水瀬さんの関係を」


 人が気持ち悪い近づくなと言っているにも関わらず、肩を組んで耳元で囁いてくる有馬。先程とは別のベクトルで背筋がむず痒くなった。


「友人。これで満足だろ」


 一刻も早くこいつから離れたかった俺は肩に置かれた手を払い除けながら、正直に今の関係を言った。


「なわけないだろ!?水瀬さんが下の名前呼びしてるんだぞ」


「たまたま、相談に乗ることがあってそこから仲良くなったんだ。それで水瀬が俺の名前を呼ぶようになったんだよ」


「いつの間にお前そんな間柄に!ずるいぞ」


「ずるいって何だよ。たまたまって言ったろ。もういいだろ」


馬鹿の相手をこれ以上するのも面倒なので無理矢理話を終わらせ、自分の席に座る。


「で、本当のところはどうなんだい?湊川」


 黒髪の美少女がこちらに顔を向け頬杖をつき、薄い笑みを浮かべながら尋ねてくる。


「お前も聞いてくるのかよ…黒瀬」


「ふふっ、昨日二人で一緒に帰っているのを見たら気になるのも仕方ないじゃないか。乙女の好物は他人の恋バナだからね仕方ないさ」


「お前の望むような話はないぞ」


「ダウト。それはないね。昨日小鳥からこんなものが送られて来てるんだ。何も起きてないなんてことはないはずだよ」


 嘘だとキッパリ言い切った後、机の下からスマホを取り出し俺に画面を見せてくる。そこには水瀬と黒瀬のチャットが表示されており、そこに目を通す。


小鳥『凛ちゃんどうしよ私湊川君にキスしちゃった!どうしよ!?」


 その一文が目に入った瞬間、俺は片手で顔を覆い思わず溜息を吐く。


「これでも、何もなかったなんて言えるかい?湊川 奏君」


「…降参だ」


両手を上げ素直に負けを認め、黒瀬に昨日ことを赤裸々に語った。


昼休み


 黒瀬によって精神をズタボロにされた俺は普段よりも疲れており、ようやく訪れた昼休憩という安息の時間に歓喜した。

今日は購買の飯を買って誰もいない場所で飯を食べようと財布とスマホを持ち立ち上がる。

 教室を出て少ししたところで、後ろから声をかけられた。


「待って」


振り向くとそこにはお弁当を持った水瀬がいた。


「どうしたんだ?」


「あの、お昼一緒に食べない?」


どうやら、今日俺に安息の時間は訪れないようだ。









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