第1話 いつもと違う登校
「っはぁ!っはぁ!はぁ、はぁ!…んぁ!…はー、はー!、何だったんだ…あの夢」
意識が暗闇から浮上した瞬間、俺は上半身をもの凄い勢いで起こした。全身から冷や汗が流れ気持ち悪い。呼吸が上手く定まらない。
冷静に落ち着こうとしてもさっき見た夢がチラつき、思考が掻き乱される。
(何が『バイバイ』だ!そんなこと出来るわけないだろ。馬鹿野郎)
夢に出てきた◯んぜの言葉が脳内に反響し、苛立ちだけが募っていく。
(あんな顔をされたら忘れることなんて出来るわけないだろが!)
一見満ち足りたような表情なのに、何処か悲しそうな顔。あれは◯んぜが事故で意識を失う時に見せた顔と同じだ。
そんなものを見せられてしまえば忘れろという方が無理な話だ。
「はー、はー…とりあえずシャワー浴びるか」
息が整ってきたことである程度正常な判断ができるようになった俺は全身の不快感を洗い流すべく風呂場へと向かった。
ついでに最後に見た血塗れの俺を記憶の中から洗い流してくれと願いながら。
◇
シャワーを浴びて朝食を食べた俺は制服に着替え身支度をし家を出る。
シャワー浴びて思考をリセットしたと思ったのに、イヤホンで音楽を流し一人で歩いているとやはり先ほどの夢のことばかり考えてしまう。
「はぁ…」
夢の出来事なんだからそんなに気にしないように言い聞かせるが、あの俺と◯んぜの姿があまりにリアリティ過ぎて夢のことだと片付けることが出来ない。
(あそこで倒れている俺はもしか「おはよう、奏君!」…)
「うおっ!びっくりした。何でこんなとこに水瀬はいつもは別の道だろ」
イヤホンをしていたのにも関わらず耳に届く大きな声。あまりの声量に一瞬頭が真っ白になり思考が打ち切られ、夢のことから目の前の美少女との会話をすることに切り替わった。
「そんなの決まってるでしょ。奏君と一緒に登校したいからだよ」
「〜〜〜!?」
そう言って屈託のない笑みを浮かべる美少女の名前は、
そんな美少女に一緒に登校したい何て言われてしまえば、男なら鼓動が早まってしまうのは仕方のないだろう。何より《彼女は俺に好意を持っており昨日キスをしたのだ》。そんなことをされて意識しないなんてことは俺には不可能で、全身の体温が上がっていく。
「……迷惑だったかな?」
水瀬はいつまで経っても何も言わない俺の顔を美少女にのみ許さられた必殺上目遣いを使いながら不安そうに尋ねる。
そんなことをされれば断るなんてことは出来るはずもなく俺は首を横に振る。
「そっか、なら良かった。じゃあ行こうよ」
俺の反応に安堵したのちほんのりと頬を赤く染めながら水瀬は俺の手を取った。
「なっ……な、何で手を繋いでるんだ?水瀬」
普通に並んで歩いて行くだけかと思っていたところに不意打ちを喰らい、俺は金魚のように口をパクパクと開きながら水瀬に視線を向ける。
「私がしたいからだよ。奏君がもっと私のことを好きになって欲しいから。手を繋いでるの」
そう言い終えた後、流石に恥ずかしいのか水瀬は顔を真っ赤にしすぐにそっぽを向いた。
「…そうですか」
俺は何て返せばいいのか分からず水瀬と同じようにそっぽを向く。
しばらく無言で歩いていると、俺の耳に近所のおばさん達の話し声が耳に入った。
「あらあら、最近にしては珍しい初々しいカップルね。私も旦那とあんな風によく帰ってたわ〜」
「嘘、羨ましいわ。私なんて夫が女慣れしてたから全然あんな感じにならなくて、でもベットの上だと初心なところを見せてくれるのは可愛いかったわね」
「おら奥さんこんな道端ではしたないですよ?」
「ふふっ、すいません。あの子達を見てたらつい昔のことを思い出しちゃってね」
「〜〜〜〜!?」
(はっず!)
微笑ましいものを見るような目でこちらを見てくるおばさん達の視線に耐えられず俺は逃げるため足を早めた。
「〜〜!?カップル…ベットの上…ふへへ」
一方、小鳥は奏に引っ張られながらおばさん達の言葉を顔をだらしなく緩ませながら、うわ言のように繰り返していた。
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