第52話 バレてるなら!


 球技大会の決勝戦。

 お互いに決め手にかけ膠着状態が続き、点数は0対0と同点のまま後半を迎え残り数分。試合が大きく動こうとしていた。


「ミナ!」


「わーってるよ!っと」


 相手のボールパスカットした有馬から受け取ったボールをダイレクトで返し、ワンツー。敵を二人抜いて敵陣深くに二人で切り込む。


「おらっ!決めろよ!」


「加減覚えろ!エロ猿」


 有馬がシュートかと見紛う程の強烈なセンタリングを上げ誰もが触れないと思った瞬間、後ろから猛烈な速度で駆け上がっていた加藤が普段は出さない荒い声を出しながら、ペナルティエリア外からダイレクトシュートを放つ。


 加藤が文句を言っているくらいに出鱈目なセンタリングを無理矢理打ったため、ボールはゴールネットではなくゴールポストを揺らした。


「ミナ!」


「湊川」


ポストに当たったボールは俺の目の前に落ちる。


「やっちゃえー!」


「行け!湊川」


「奏君!行けーー!」


 沢山の声援を背に受け、俺は右足を振り抜く。

 ボールはゴールの左上隅へ向かって進み、ギリギリ届いた相手のゴールキーパーの指を弾くとゴールネットに突き刺さった。


「「………」」


ピッ、ピッ、ピーーー!


「「「うわぁーーーーーー!」」」


「「「うおぉっーーーーー!」」」


 一瞬の静寂がグラウンドを支配した後、試合終了を告げるホイッスルの音を合図に、割れんばかりの歓声が響き渡った。


「…のわぁっ!」


 俺がゴールの余韻に浸っていると後ろから衝撃が走り、クラスの奴らにむみくちゃにされる。


「流石だぜ相棒!お前の嗅覚はやっぱ最強だ!」


「やったな、湊川!」


「あぁ!って痛い痛い!誰か背中のツボ押してる!押してるやつ止めろ!」


「そんな細けぇことは良いんだよ!優勝だ!優勝!今日は宴だーーー!」


「「うおぉっーーーー!」」


 祝勝会をする予定なんてないのに、皆んな勝利の余韻に酔っているのか有馬の馬鹿発言に乗り雄叫びを上げる。

 そんなクラスの奴らを見て、俺と加藤は顔を見合わせ苦笑いした。


「やったよ!やったよ!りんちゃん、ことちゃんミナミナが決めた!めっちゃカッコ良かったね」


「あぁ、最高にカッコ良かったよ。マンガの一ページみたいだったね」


「うん、カッコ良かった。誰よりも」


 女子からの俺を褒める声が聞こえた瞬間、加藤が俺の背中を思いっきり叩いてきてめっちゃ痛かったけど、嬉しかった。


「整列しろお前らー!」


 平静を装って担任の先生が俺達を並ぶよう促すが、その声には隠しきれない喜びが混じっている。


「先生無理しなくて良いんすよ!こっちきて一緒にはしゃぎましょ!」


「歳とか気にしたり、我慢とかしなくていいですから!」


「お前ら!引っ張るな!この服最近買ったばっかなんだぞ!」


 こうして、俺にとっては波乱の球技大会は幕を閉じた。



「最後のシュート本当にカッコ良かったよ。奏君。私はダイレクトでシュートなんて打てないから憧れちゃうなぁ〜」


「いやいや、水瀬のあん時のスパイクも中々凄かったぞ。綺麗なフォームでめっちゃ高く飛んでたしあれは俺は真似できないなと思ったわ」


「そう言われると照れちゃうな」


 球技大会が終わり、放課後の帰り道。

 俺と水瀬は川沿いの道を二人で喋りながら歩いていた。


「改めて今日はありがとね奏君。奏君のおかげで私は大きく前に踏み出せたよ」


 前に一歩踏み出しくるりとこちらに振り返り笑顔で礼を言う水瀬。

 夕陽を背にした彼女の笑みはとても綺麗で、お礼の返事も忘れ俺は見惚れてしまった。


「…奏君?」


「いや、悪い。今まで水瀬の笑みは何処か陰があったからさ。今の水瀬の笑みを見てその陰が無くなったのが嬉しくて今までのことを思い出してた」


「そっか。私、奏君には本当に迷惑をかけたね。クリスマスの日から今日まで沢山沢山」


 俺の返事を聞いて柔らかく水瀬は微笑んだ後、遠い目をした。


「今日は俺の方がかけてたけどな。お互い様だ」


「そんなことはないと思うけど」


 俺が軽い口調でお互い様だと言うと、水瀬はそう思っていないのか少し不満そうな顔をした後、すぐに何かを決心したかのような表情で宣言した。


「でも、ここで終わりじゃないよ。ここからが私達の本当の始まり」


「ああ、そうだな。一緒に探してくれ水瀬。俺達が望む理想のハッピーエンドを」


「ふふっ、そんなこと言われなくても私はずっと奏君の側にいるよ。…ハッピーエンドが見つかった後もね」


「〜〜!?」


 水瀬は俺に聞こえないような声で言っていると思っているのだろうが、俺の耳にはしっかり最後の小さな声まで聞こえてしまっている。

 その言葉の意味が何を指すかなんて分からない馬鹿じゃない。俺は頬に熱が集まるのを感じて片腕で顔を半分隠してそっぽを向く。


「どうしたの?」


 急にそっぽを向いた俺を不思議そうに見てくる水瀬。俺は突然不意打ちを喰らったせいで気が動転し、上手く誤魔化せず正直に言ってしまった。


「…いや、その聞こえてた。最後の方も」






「ほぇ……〜〜〜〜!?」


(嘘!まさか最後の聞こえてたの。どうしよう、どうしよう!なんて誤魔化せば)


 奏君から独り言が聞こえられていると告げられた私は、顔に熱がもの凄い速度で集まるのを感じながら、どうにか誤魔化そうと頭をフル回転させる。


 その最中に、なっちゃんの言葉が脳裏によぎった。


『勇人の時から全然隠せてないわよ。まぁ、鈍感だったからそう思うのは仕方ないのかもね』


(ゆーくんは鈍感だから気づかなかった…じゃあ、奏君はどうなの?あの少しだけの時間でなっちゃんに気づかれているんだったら、もっと長い時間側にいた奏君は?)


 私の好意に気づいてる?


 その考えに辿り着いたところで、私が奏君に向けて放った様々な告白紛いの言葉が幾つも脳裏を過る。そして、そこで彼が私の好意に気付いてないとおかしいことに思い至った。


「〜〜〜〜〜〜〜!?」


 その瞬間、私の中をとてつもない羞恥心が襲う。それと同時に私の中である考えが浮かんだ。


(バレているんなら我慢する必要はないのでは?)


 一緒に帰っている間ずっと考えていた奏君としたい事。手を繋いだり、ハグしたり、そしてキスしたり何て考えていたことはだって、奏君にバレているのだから。

 何より、奏君がハッピーエンドを迎えるためにはあの子よりも私のことを好きになって貰わないといけない。

 アピールするのは奏君の幸せのため。

 なら、しても我慢しなくてもいいよね?


 そう開き直ると私は、背伸びをして奏君の赤い頬にキスをし


「私頑張るから!」


とヤケクソ気味に宣言した。








      第一章 失恋モブと負けヒロイン  完



あとがき

今まで沢山の応援ありがとうございました。ここまで走って来れたのはひとえに皆様の声援があったからです。本当に本当に感謝しています。

お礼はこれくらいにして本作について触れましょうか。この作品を書こうと思った理由は単純で幼馴染みに振られた自分が願う幸せの形を描きたかったそれだけです。そんな動機から生まれたのが奏君でした。

幼馴染みに振られ新しい恋を探す。最近はこういう話が多いですが僕は嫌いでした。何故なら幼馴染みに振られたからと言ってすぐに新しい子に目移りしているからです。幼馴染みへの想いがそんな簡単に忘れるものじゃないということを皆さまに伝えたかったのも動機の一つです。

そんなわけで自分勝手極まりない理由で書いたこの作品ですが、僕はこの世界が好きです。大好きです。誰かが不幸になるのはもう見飽きた。全てのキャラクターには幸せになる物語をここから広めたい。そして願わくばもっと多くの人たちに知ってもらいたい。それが今の僕の願いです。

……急に恥ずかしくなってきた。

まぁ、真面目な話はこれくらいにして最後にフォローやレビュー、コメント、応援の方をよろしくお願いします。



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