第50話 バカ彼氏!



「思ってない!」


 俺の質問に対して、堺は普段は出さないほどの大きな声で否定した。


「僕の心はあの時、確かに夏美に向いていたんだ。だから、あの選択は間違いだなんて思っていない!過去に何度戻っても僕は同じ選択をする」


 もし、堺が親友アイツのように選んだことを間違いだと言うのなら殴ってやろうと思っていたが。

 親友と同じ選択を取らなかったため、俺は一度拳を握る力を緩め、返ってきた返答によって生まれた疑問を溢す。


「なら、何で今頃になって水瀬を構う?過去に何度戻っても同じ選択をするのなら、尚更俺には分からない」


「君には分からないよ。長年想われていた女の子がたった数ヶ月で他の男を好きになっているのを見た僕の心情なんて」


 堺は拗ねたような表情でそう吐き捨てると、自身の心情を吐露し始めた。


「『ふざけるな』それが最初に見た時に浮かんだ言葉だった。

 小鳥の僕に対して抱いていた思いが簡単に捨てられてしまうようなものだったのか。そんなに簡単に捨てられてしまうのなら、何で僕はあんなにも悩み苦しんだのか、と。怒りを覚えたんだ」


「水瀬はお前への思いを捨ててなんかいない。今もお前の影を俺と重ねて苦しんでいる」


(水瀬がどれだけ苦しんでいるのか知らないくせに)


 話を遮るつもりはなかったが、水瀬が堺への思いを簡単に捨てられていると言う発言に俺はどうしようもなくイラついて口を挟んでしまう。


「分かってるよ。そんなの。校舎で会った時十分に分かってる。だけどね、頭では理解しててもそれを受け入れられるかは別なんだよ。僕達が別れる前に小鳥は君の手を掴んだのを見たら考えてしまうんだ。本当に小鳥は僕のことを好きだったのかって。そしたら、新たな疑念が生まれてしまったんだ。夏美は本当に僕のことを好きなのか?夏美も小鳥と同じように僕への想いなんかすぐに捨てられるようなものなんじゃないかって」


「……」


 誰かに好意を長い間、向けられたことがない俺には分からない感覚。

 星川や水瀬の心情をマンガで読んで知っているから俺は彼女達の想いが紛い物なんかではないと分かっている。

 だが、堺はそんなことは分からない。水瀬が数ヶ月で俺に好意を持っているのを見たら疑念を持つのは仕方ないのかもしれないと思う。そう納得してしまった俺は、イラついた心を落ち着かせ堺の話の続きを黙って聞くことにした。


「だから僕はその疑念を晴らしたくて、小鳥に振り向いて欲しかった。小鳥には僕だけを見ていて欲しかった。僕達の甘くも切ない日々は簡単に捨てられない物なんだって、夏美の想いは紛い物なんかじゃないんだっていう確証が欲しかったんだ」


「その確証のために誰かを傷つけてもいいと思ってるのかよ?水瀬を泣かせても良いのかよ!水瀬を物のように賭けて良いと思っているのか!」


 そんなの唯の自分勝手だ。

 自分が傷つかないために、誰かを傷つけるなんて間違っている。

 そんな理由で、水瀬が泣いているなんて俺は許せない。

 少しは同情の余地があると思って続きを聞いていたが俺には無理だ。

 我慢なんて出来ない。

 俺は堺の胸ぐらを掴み怒鳴り散らかした。


「思ってるわけないよ。ただ、止まれなかったんだ。僕は弱いから自分の感情を止めることが出来なかった。その先に前と同じ苦しみがあると分かっていたとしても、小鳥を傷つけてしまうと分かっていても僕は…グッ!「『星川の想いが本物だと知りたかった』か?ふざけるな!」」


そんな理由で


「お前のせいで水瀬だけじゃない、!お前の一番大事な女の子が。横を見ろよ!」


 お前は大事な彼女を悲しませるのかよ。親友と同じように。


「…えっ?何で夏美がここに…?」


 堺は俺に言われるがまま横を向くと、いつのまにか隣にいる星川を見て驚愕した。


「…そんなの決まってるじゃん。彼女の言うことを聞かないバカ彼氏を叱りに来たんだよ。この大馬鹿野郎ーーーーー!!」


パチン!


「へぶっ!」


そう言って星川は堺を思いっきり引っ叩き、堺は俺の手から離れ尻餅をついた。


「私達の想いが偽物だと思った〜〜〜!?ふざけるなよバカ彼氏!お前は私達が振り向いてもらうために恥ずかしい気持ちを押し込めながら、あんなことやこんなことをしたのにそれを偽物だぁ〜!?舐めてんのか、コラァ!鈍感も大概にしろ!」


 グラウンド中に轟く程の怒声を上げながら、般若と見間違うほどの憤怒の表情で堺に馬乗りになりながら追撃のビンタを次々に放つ星川。

 ある程度こうなることは予想はしていたが、まさかここまで本気で引っ叩くと思わず俺は顔を引き攣らせた。


「ぶへぇ」


「私が、あれだけ!「ぶへ」初めては!「あがっ」生涯を!「へぶら!」共にする人にしか!「かはっ!」あげないって!「……」あれだけ言って!「……」夜の初めてをあげたんだから私がどれだけ本気か分かれやーーー!「……」気絶してんちゃうぞ!バカ彼氏ーーー!「はいーーーーー!」」


「…妥当だな」


 気絶したあたりで流石に止めた方がいいかと思ったが、処女を奪っておいて星川の想いが偽物だと疑っているのは流石に擁護のしようがない。


「はぁ、はぁ、耳かっぽじってよーく聞け!私は勇人が大好きだ!鈍感で思い込みが激しくて一人で突っ走りがちでイケメンじゃないけど、勇人のことが大好きだ。優しいところが好き。鈍感のくせに私たちが落ち込んでいたら、気づいてくれるところが好き。

 私達のプレゼントを買うために、学校にも親にも内緒でバイトしてくれるところが好き。風邪を引いたら、甲斐甲斐しくお世話してくれるのが好きだ。何より、私を私という人間の全てを受け入れてくれる勇人が私は大好きだ!これで分かっただろ。バカ彼氏!」


「〜〜うん」


「なら、もう二度とこんなことしない!」


「分かったよ」


「はい、じゃあまず謝る!迷惑をかけた湊川に誠心誠意土下座でね」


「湊川君、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」


 星川がそう言って堺の上から降りると、水瀬や俺があれだけ言っても変わらなかった堺が言われた通り土下座しているを見て、俺はヒロインの凄さを再認識した。






『ハッピーエンドなら最後は明るくないと…ね。

まぁ、暗くした私が言うなって話だけど』




少女は小さくそう呟くと、残りページ数枚のところで微笑み本を閉じ教室を出た。





あとがき

書き直しました。やっぱ殴んねぇとな。

そろそろ一章が終わります。

ちなみに最後の意味深発言で色々なことが分かると思うの考察を聞かせてもらえると嬉しいです。

回収するのはまだ先なんですけどね笑


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