第49話 お前は間違えたと思っているのか?
試合開始のホイッスルが鳴る。
ボールは有馬の横にいるクラスメイトの元に行くと、俺達は敵陣へ走り込んでいく。
「ミナト!」
名前を最後まで呼ぶのが面倒なのか、クラスメイトに『ミナト』という初めてのタイプの名前を呼びながら俺に向かってパスを放つ。
それを俺は足元に止めず前に落とし、ドリブルを開始。一人の股を抜き、敵陣に入り込むと目の前には堺が俺の行手を阻んだ。
『勝負しよう』
堺が試合前に放った言葉。別にこの言葉自体に俺は別に何とも思っちゃいなかった。お互いの不満をコート上でぶつけ合うことなんて球技をしていればザラにある。
だが、最後に堺が口パクで言った言葉だけは許せなかった。
小鳥を賭けて。
水瀬が誰と一緒にいようとそれは自由だ。
ただ、それは俺達が水瀬の意思を差し置いて決めることは傲慢でしかない。人を物のような発言が癪に触り俺はそこで、返事をしなかった。
だからと言って、勝負しないかと言えばそれは違う。
俺は堺にぶつけたい言葉がある。
それは単に、言葉で言っても今の堺には伝わらないだろう。
水瀬の泣き顔を見ても、何一つ変わっていないコイツには。普通に言っても響かない。
だから、俺は勝負する。
「…行くぞ」
ボールを左右に振り堺を揺さぶると、堺が右から左へ行くタイミングで、反応が遅れたのを見た俺はルーレットをして堺を抜きゴールへと走る。
「まだだ!」
堺は抜かれることは想定済みだったのか、身体を直ぐに反転させ俺を追走。横に並ぶと、細身の身体から繰り出されたとは思えないタックルでボールを奪おうとする。
が、こちらは元サッカー部。中学も帰宅部だった男に体格で負けるわけがない。
何度も堺のタックルを受けるが、俺は体幹を崩すことなくそのままゴールへと向かっていき、ペナルティエリアに入る。
「なっ!」
その瞬間、急ブレーキをかけ一回転。
堺のタックルを躱すと、ゴールの右上隅にシュートを放った。
「まずは一勝だ」
シュートが決まり、一点取った俺は堺にだけ聞こえるボリュームで言い放つと自陣コートに戻る。
「クソっ!次は僕の番だ」
堺は悔しそうに地団駄を踏み、ボールをゴールキーパーから受け取るとキックオフの位置まで走って行った。
◇
「ヘイ!」
一組ボールからのキックオフ。
サッカー部と思われる男子三人が上手くパスを回しながら、ペナルティエリア付近まで入り込む。
そこで、堺が自陣から駆け上がりフリーでボールを貰う。
だが、俺は堺にボールが行くだろうことは何となくだが視線の動きで分かっていたため、ある程度堺の近くに位置取っていた。俺はボールを奪うべく堺のパスコースを潰しながら近づく。
「ッツ!」
完全に出し抜いたと思っていた堺は俺の接近に、驚きながらも振り切ろうと全力でドリブルし、シュート範囲に向かう。
「これで!」
自分の一歩後ろに俺がいるのを確認した堺は、完全に振り切ったと思い自身の射程範囲に入った瞬間シュート体勢に入る。
そのタイミングで、俺はスライディングしシュートブロック。ボールは堺の足に当たりコート外へ。
俺達のチームのスローイングになった。
「二勝目」
「チッ」
完全に止められたことを本気で悔しがる堺。
俺はその姿を冷めた目で見ながら、ゴールを決めるべく走り出した。
「三勝目」
前半終了間際、コーナーキックのボール堺と競り合いフィジカルで勝った俺は堺の身体を吹き飛ばしながらヘッディングシュートを打ち、点をもぎ取る。
「四勝目」
前半が終了する前に速攻を決めようと、一組のサッカー部がキックオフと同時に全開のドリブルで三人抜き、人を集める。ゴール直前になったところで真横へのパス。ドフリーの状態で堺がボールが渡…らなかった。
何故なら、俺だけはサッカー部のマークでなく堺をマークしていたから、パスカットが出来たのだ。
普通ならサッカー部でない奴をマークするなんてことはしないが、勝負をしているため堺にボールが集まると確信していた。
勝負に勝とうとしている堺が、試合ギリギリの気が緩みやすいこのタイミングで仕掛けてこないわけながない。そこで、あんな分かりやすく突っ込まれたら警戒しない方がおかしいだろう。
というわけで、前半戦にあった勝負は全部俺の勝利で終わった。
自分の負けを認められないのか堺は、前半が終わるとクラスメイト達の輪から外れ、グラウンドの端に座り膝に顔を埋めていた。
「じゃあ、俺先生に頼まれてることがあるから。ここで抜けるわ」
と、俺はクラスメイト達に断りをいれ堺の元に近づき一番聞きたかったことを尋ねた。
「お前は星川を選んだのが間違いだと思っているのか?」
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