第46話 恋愛
◇ 小鳥視点
「私は側にいる」
「えっ…?」
奏君の過去を話を聞いて私が出した答えがこれ。
それを聞いた瞬間、奏君は驚いた表情をしていたのが少しだけ悲しかった。
私のことをまだ信用していないと分かったから。
でも、私はすぐにこれから信用されるように頑張ろうと気合を入れ、今から話すことが奏君の心に響くようにと願いながら口を開く。
「多分、奏君はさ。人を好きになるってことは素敵なことだと思ってるでしょ?
小説や映画に出てくるような純粋で、綺麗な恋を想像している。でもさ、それに映し出されている感情ってとっても少ないからそう見えてるだけで、実際はもっと多くの葛藤や悩みがあるの。
だから小説や映画だって現実の恋愛と同じ。恋愛の根本的な原動力ってこの人のことを好きだからっていう純粋なものじゃなくて、その人のことを誰にも渡したくない。私だけのものにしたいっていう醜い独占欲なんだ」
「……」
「だからね、奏君の気持ちはおかしくなんてないよ。私もそうだったから。なっちゃんが来た時は最初は、身を引こう、諦めようと思ったけど、途中でやっぱり欲しいってなっちゃって、なっちゃんと勝負したの。奏君も途中で欲しいって感情が抑えきれなくて動いた。ほら、一緒でしょ?」
そう言って、私は奏君に投げかけるような視線を向ける。
奏君の瞳に映る感情の色は困惑。
多分だけど共通する部分はあると分かってはいるが、それを一括りにしていいのか分からないのだと思う。私と奏君の結果は違うから。
タイミングが悪かった。
言葉にすればたったそれだけのことだけど、それをそう割り切れるかは話が別。
目の前で、想い人が事故に遭ったというトラウマは私じゃ想像出来ないほど、奏君の心の奥深くに根付いている。
多分何度も言われているだろうけど私は言うよ。
いや、同じ痛みを知っている私だから言うの。
「奏君は運が悪かったとしか言いようがない。だから、奏君の好きだった子が事故に遭ったのは全部が全部君のせいなんかじゃないんだよ」
「…いや俺が全部悪いんだよ。俺があんなことをしなければ!」
「奏君それは違うよ。その子が事故に遭ったのはその子にも親友の人にもマネージャーの人にも責任がある。奏君の気持ちに気付かずに手伝うよう頼んだ子も、すぐにハッキリと答えを出さなかった親友にも、きっかけを作るために協力を依頼したマネージャーにも責任はある。
皆んなが皆んな自分のため、自分のために行動したから起きた事故。
だから、責任全てが奏君なんてことはありえないの。奏君は優しいから背負い過ぎなんだよ。何もかもを自分のせいにすれば他の誰かに当たらずに済むって考えてる」
「そんなことは…」
「あるよ。少なくとも私にはそう見える。だって、奏君昔の話をする時誰も非難してなかったもん。普通ならもっと誰かを責めたりする。例え、頭でその人は悪くないと思っていたとしても非難しちゃう。自分は悪くないって安心したいから。でも、奏君はそれをしない。自分の思い出を汚すのが嫌だから。綺麗なままにしていたいから。誰かのせいになんてしたくないんだと思う」
辛い過去を話しているはずなのに奏君の声色はどこか優しかった。
それは前に言っていた好きな子と過ごした時間が辛い時に、奏君の心の支えになっていたことが関係しているのだと私は思う。
辛い過去ですら奏君の支えの一部だから。
それを否定するのは過去を全て否定してしまうような気がして、支えが無くなるのが怖いから奏君は全部自分のせいにしてようとしている。
「多分誰かのせいにすることはもう、奏君には出来ないんだよね。ならさ、私にも分けてよ。一緒に背負わせてよ。今よりもずっと良くなるから。そしたらいつか自分を許せる日が来るかもしれない」
「……本当にいいのか?」
「私何かで良ければ」
「…沢山迷惑かけるかもしれないぞ?」
「私は沢山奏君に迷惑をかけたんだから。気にしないで」
「どれだけ時間が掛かるか分からないぞ?」
「そんなの分かってるよ」
「……つい最近まで自分のことで手一杯だったくせに」
ちょっと前の私と同じようなことを言っていることに気づいた奏君は、立場がいつの間にか逆転したことが悔しいのか憎まれ口を叩く。
「誰かさんのおかげだよ。私がこんなに成長出来たのは」
私は自分が奏君に頼られる存在になれたことが嬉しくて、口元をにやけさせながら軽口を返した。
あとがき
自分が名言マシーンなんかじゃないかと思ってきた。(なわけあるか
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