第44話 君は幸せになっていいんだよ
「教えてよ。奏くん。君のことを私に。奏くんが何に悩んで、苦しんでいるのかを教えて。こんな、私じゃ頼りないかも知れないけれど教えて欲しい。私は何にも知らないから。奏くんをこうやって抱きしめることしか私には出来ない」
「でも、こんなことじゃ奏くんの傷を癒せない。だから、教えてよ。そしたら何か思いつくかもしれない。奏くんが思いつかなかったことを二人なら見つけられるかもしれない」
耳元に聞こえる水瀬の声は優しくて、真っ直ぐで真っ暗な俺の心を仄かに照らし白く華奢な手が目の前に差し出された。
(俺は、俺は……!)
分かっている。水瀬がこの手を取ることを望んでいることを。そして、それが俺の救いになることも。
だけど、どうしても考えてしまう。
この手を取っても良いのか、と。
俺は鈍感な主人公なんかじゃない。彼女の名前呼びが、有馬に指摘された時、熟したリンゴのように真っ赤に染まったあの顔。あの慌てようが。
何を意味するかなんて分かっている。
水瀬は俺に好意を抱いている。
それが、恋愛に発展するかなんて分からない。
だけど、確実に他の男には持っていない特別な好意を水瀬は俺に持っている。
俺だって
『やったよ!奏君』
だが、あんな綺麗な笑顔を見せられてしまえば彼女の気持ちを偽物だなんて俺は思えない。
何より、誰よりもあの子がアイツに向けていた顔を知っているからこそなおさら思えなかった。
俺じゃ水瀬を幸せに出来ないから。
水瀬の幸せを願うのなら離れろ。
〇〇ぜへの償いを忘れたのか!
これ以上はいけないと俺の中で警笛が鳴る。離れろと理性が訴える。
だから俺は、今日水瀬から離れようと決意した。このまま一緒にいてはいつか彼女が傷つくことになるから。
俺は手を取っちゃいけないんだ。
伸ばしかけていた手を引っ込めようとした時、誰かが俺の手を掴み、水瀬の手を握らせた。
突然の出来事に驚愕しながらも俺は手の主の方を向くがそれが誰なのかは分からない。
姿、顔は見えているのに何故かそれを認識することが出来ないのだ。
『君は幸せになっていいんだよ』
少女はそう言って優しく微笑み姿を消す。 と、俺の中から少女の存在は完璧に消え去り、水瀬の手を取ったという事実だけが残った。
「…つまらない話だぞ?」
落ち着いた俺は水瀬の肩に頭を乗せ、ポツリと呟いた。
「そんなの分かってるよ」
水瀬は僅かに身体を震わせた後、少しだけ俺の身体を抱きしめる力を緩める。
返ってきた声は少しだけ弾んでいた。
あとがき
大変お待たせしたのに申し訳ない。色々試行錯誤してたら遅くなりました。近況ノートに意見をくれた方々のお陰で最後まで道筋が見えたので本当に感謝しています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます