第42話 まだだよ


◇小鳥視点


「…わたし、私あんなこと言いたかったわけじゃないのに…もっと、色んな事考えてたのに…」


 ゆーくんから逃げるように奏君の手を引き辿り着いた階段に腰掛け私は誰に向けるわけでもなくうわ言のように後悔の言葉を紡いでいた。


「…ゆーくんに……私のことはいいからって、気にしなくていいからって……伝えようって……あの時間は紛れもない私の大切な思い出だって伝えようって……思ってたのに…素直になっちゃんと幸せになってね……っていつか心の底から言おうと思ってたのに…」


 何処かで見た物語のエンディングのように、素直にゆーくんとなっちゃんを祝福するんだって。あの日からずっと考えていたのに…。


『僕また昔のように小鳥と夏美と話がしたい、昔の関係に戻りたい』


 ゆーくんのあの言葉を聞いた瞬間、抑えられなかった。

 どうしても許せなかった。

 私の今までを、なっちゃんの思いを踏みにじられているように感じて。

 私達がどれだけ恥ずかしい思いをしてゆーくんにアピールをし続けたと思っているの?

 私達はもう昔のような関係に戻ることは絶対に出来ないと分かっていながらも、ゆーくんの側にいることを望み戦ったのに。

 その覚悟を、行動を全て一番否定して欲しくない人に否定された。

 それが本当に悲しかった。

 振られたことよりも、一番には二度となれないんだと思い知らされた時よりもずっと、ずっと悲しかった。

 私達の想いはそんな簡単に見られるようなものだったんだと、絶望した。

 もう消えてしまいたいと願うほどに。


 だけど、傷ついたからこそこの苦しみから解放される道を見つけてしまった。それは。


『ゆーくんのことを嫌いになること』


 私がこれだけはしたくないと目を逸らしていた暗い道。自分の今まで全てを否定する最低の道。

 それを見つけてから、ずっと私の頭の中にはこちらに来いともう一人の私が手招きをしている。 


 嫌だ。


 私はそれだけはしたくない。


 それだけは絶対に。


 それをしてしまったら私は…今私の握っている奏君との約束を破ることになる。


『一緒に探そうぜ。ハッピーエンドを』


 そう言って、手を差し出していた奏君はとても辛そうで手を握ると微かに震えていた。

 あの時私は、自分のために手を握ったけど今は、奏君と話をして彼の優しさに触れて助けられていくうちに、私は奏君にも幸せになって欲しいと思うようになった。だから、私がこの道を選べば彼の望む未来はやってこないと分かっているから。私は踏み留まっている。


「『恋わずらいの人は、ある種の病人のように自分自身が医者になる。

苦悩の原因をなした相手から癒してもらえることはないのだから、結局は、その苦悩の中に薬を見出すのである。』俺から出来ることはもうこれ以上はない。後は水瀬次第だ」


「……頑張れ。水瀬 小鳥  」


 奏君は優しいから。また、そう言って私が楽になる道を選ぶことを許してくれる。

 私の手を振り解きまた一人に戻ろうとする。


 でも、それじゃあ奏君が…幸せになれないよ。


 私がここで抜け出してしまったら奏君は……もう二度と。


「……側にいて」


 私は一度離れた手を再び掴んだ。


 困難な道だって分かってる。けど、君を一人にするのなら私は困難な方を選ぶよ。それが私にできる唯一の恩返しだと思うから。









……ごめん。嘘。さっきのは本当なんだけど本当の本当は違うの。


本当の本当は………私が奏君の側に居たいから。


何故隠したのかは察して欲しい。


こんなのもう私が奏君のことが、だと言っているようなものだから恥ずかしかったの。











内緒にしてね?

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あとがき


去年ギリギリ投稿した奏君の話の後にこれを投稿する予定だったんですけどタイミング逃したんでこの時間です。嘘です。単純に筆が乗らなかったんです。今書き終えました。(現在23:52)何故奏君の話をあの時間に投稿したのかは意味があって今年にこの話を投稿することで小鳥ちゃんと奏君の関係が変わった様を表したかったからなんですよね。去年は一人だった奏君の側に今年は小鳥ちゃんがいるっていうのを伝えたかったんですよ。

伝わったかな?そうだといいな。


てなわけで、あけましておめでとうございます!

今年も負けヒロインの応援の方をお願いします!











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