第40話 許さない

さきがき

前話を修正しているのであれ?と思った方前話を読み返して貰えると助かります。


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「僕、ずっと小鳥に謝りたかったんだ」


 堺は俺がいるのも気にせず謝罪を始めた。


「……」


「あの日君を振ってから僕は後悔していたんだ。大切な人を傷つけたことを今日までずっと」


「……」


 水瀬は今さらそんなことを言われても、どう反応して良いのか分からず困り顔で堺が続きを言うのを待つ。


「今日小鳥と夏美が試合するって聞いた時、僕本当は行くつもりなかったんだよ。また、小鳥を傷つけてしまうかと思って。だけど、僕は周りに流されてあの試合の応援に行ってしまった。そして、周りのみんなに唆されて夏美を応援したんだ。小鳥を傷つけると分かっていながらね。本当に最低だよ僕は。ごめん小鳥。だけど、どうか許されるなら僕はまた昔のように小鳥と夏美と話がしたい、昔の関係に戻りたい」」


堺はそう言って申し訳なさそうに頭を下げる。


「ゆーくん……」


 だが、謝罪された程度で水瀬の傷が癒えるほど事は単純じゃない。

 水瀬が堺に振られてどれだけ辛く苦しい思いをしたのかは彼女にしか分からない。

 ただ一つ言えるのは謝罪一つで癒えるような生半可な傷ではないということ。

 俺が分かるのはそれだけだ。だけど、それが分かるからこそ俺には水瀬が次に何をするのかを何となくだが分かっていた。


「…無理だよゆーくん。それは無理だよ!そんなの都合が良過ぎるよ!私がどれだけ辛い思いをしたと思っているの!私がどれだけ苦しんでいると思っているの!今日私はどれだけ傷ついたと思っているの!もう、私はどうやったって一番にはなれないんだって現実を振った時と合わせて二回も突きつけられたの!二回も私は傷つけられたの!そんな相手とゆーくんは平気な顔して話そうよって言ってるの!ふざけないで!」


「小鳥…」


 それは、怒りのままに感情を吐露すること。

 今、堺の謝罪など今の水瀬にとっては焼け石に水。水瀬を怒らせるだけでしかない。


「…なっちゃんは、そんなゆーくんのしたことを自分がしたことじゃないのに申し訳なさそうにしてた。

 試合の最後の方なっちゃんは私と視線を合わせてくれなかったのは、ゆーくんのせいなんだよ?なっちゃんは何度も私との距離を詰めようとしてくれてたのに。ゆーくんがそれを台無しにしたんだよ!

 最低だよゆーくんは。本当に最低!昔のように戻ろうって言ったゆーくんが一番私達を遠ざけたのに。……そんなの…都合が良さ過ぎるよ。ゆーくんが、昔のような関係に戻ろうなんて言うのは都合が良過ぎるんだよ…」


「だけど夏美とは最終的に仲良くなれたじゃないか、なら僕とだって」


「なっちゃんは私を傷つけるようなことをしなかった!私のことを本当に労わってくれていると分かったから、何度も向き合おうとしてくれたから…私も向き合おうと思えたんだ。ゆーくんとなっちゃんじゃわけが違うよ。私のことじゃなくて自分が傷つかないことしか考えていないゆーくんとは違う」


「小鳥僕…「もう何も言わないで!今ゆーくんの声なんか聞きたくない!お願い消えて!昔のように戻りたいのなら今は目の前から消えて!」…は」


 堺が何か言おうとしたがそれは水瀬によって遮られ封殺される。口を開こうとするが、水瀬になんて言葉を掛けていいのか分からず、堺はその場で俯き固まってしまった。


「ゆーくんが消えないなら私達が消えるよ。行こう奏君。…………っツ」


 水瀬はそう言ってしびれを切らしたのか俺の返事も待たずに手を取り早歩きで引っ張って行く。

 俺は為されるがままに水瀬の後をついて行き、曲がり角を曲がろうとしたところで堺の方を見る。

 堺はもの凄い怒り形相でこちらを睨みつけていた。


(俺のせいで、水瀬が謝罪を受け入れてくれなかったとでも思っているのか?ふざけるなよ…キレたいのはこっちも同じなんだよ)


 堺を見ていると、どうしてもあいつのことを思い出しイライラする。

 それが、八つ当たりなことくらい分かっているから。

 俺は今まで我慢してきたが、この時だけは我慢しなくていいだろうと思い、今まで溜めていた感情を全て込めるように俺も睨み返す。


『あいつのように水瀬を泣かせたお前を俺は絶対に許さないからな』


 微かに震え今も涙を流している水瀬の手を強く握り返しながら、俺はそう決意した。








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