第39話 気付きかけた気持ち

さきがき


書き直しました


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「ことちゃん。もう湊川君教室戻っちゃうよ?」


 奏が礼を終えて教室に戻ろうとしていたので、今がチャンスだとアリサは小鳥に知らせる。


「うっう〜……」


(いや、その奏君のことが嫌いってわけじゃ決してなくて好ましいとは思ってて……あっ、また奏君て呼んでる。のうわぁーー!?)


 が、小鳥は未だに頭から煙を出して唸っておりアリサの声は届いていない。


「ありゃりゃ、こりゃ駄目だね。完璧に自分の世界に閉じこもってるよ。リンリン。どうしたらいいと思う?」


 小鳥の前でぷらぷらと手を振り反応が返ってこないと分かったアリサは、鈴音に意見を仰ぐ。


「そうだなぁ……少し待っていてくれ。良いことを思い付いた」


 鈴音はそう言ってコートの方に歩いて行った。






◇奏視点



「ハッ、ハッ、ヘイ!」


 俺は有馬をフォローするために全速力で走って近づき声を上げパスをもらったところで


 ピッ、ピッ、ピー!


と試合終了を告げるホイッスルが鳴った。

 試合結果は六対二で俺たち三組の勝ち。一回戦突破だ。


「…飛ばし過ぎたな」


 俺は足に疲労がすこし溜まっているのを感じ、調子に乗って動き過ぎたと反省する。ボールを足下で転がして遊んでいると有馬が取ろうと突っ込んできた。


「ミナがあんなにやる気を出すなんて珍しいな?やっぱり水瀬と関係が…」


「あるわけないだろ。今日は珍しく調子がよかったんだよ。それだけだ」


俺はボールを少しだけ引き有馬の足を躱すと、話を切り上げる。そして、ボールを手に持ち列に並びに向かう。


「本当か〜?」


「うぜぇ、面倒い、臭い」


「お前!前二つはともかく臭いはライン越えだぞ!」


「うぉっ、近寄るな!ガチでお前汗臭いんだよ」


 俺の発言にキレた有馬が全速力で追いかけてくるので、追いつかれないよう逃げる。

 そのチェイスは二分ほど続き、加藤の『整列しろよ、馬鹿共」と言われたことで終わりを迎えた。


「俺は臭くねぇよな!加藤」


「はいはい、そうだなぁ」


「鼻つまむの止めて!ガチっぽいから」


 礼をし終えた後有馬がそう言って加藤の元に近づくと、顔を顰め鼻をつまみながら対応されたせいでかなり凹んでいた。

 それを見て笑っていると、ツンツンと後ろから突つかれた。


「湊川悪いんだけど小鳥を保健室に連れ行ってくれないかな?体調不良みたいでね」


 後ろに振り向くと、そこには苦笑いを浮かべ水瀬の方を指さす黒瀬がいた。




◇ 小鳥視点


「いつまでそうしてんだよ?通行の邪魔になるぞ」


「ほぇ?」


 頭を抱えて色々な葛藤をしている私の頭上から声が聞こえ、思わず顔を上げる。

 そこには、絶賛私の心を掻き乱している張本人である奏君がいた。


「えっ?何でそ…湊川君がここに」


 なぜ試合中のはずなのに?

 彼がここに居るのかが分からず、私は戸惑いの声を漏らす。


「本当に名前呼び無意識だったのかよ」


「あぅぅ〜!?言わないでよ〜そのせいで絶賛大混乱中なんだから」


「すまんすまん。俺がここに来た理由は水瀬の体調が悪いみたいだから黒瀬に連れてってくれって頼まれたからだ。まぁ、俺と水瀬の関係を勘違いしたのかもな」


「リンちゃん!」


 奏君が指さした方向にいる親友達になんてことをしてくれたの!と視線を送るとリンちゃんとリサちゃんはグッジョブと親指を立て、校舎の中に入っていった。


(困るよ〜!私今どういう風に接していいのか分からないのに。二人っきりなんて絶対に無理!)


 私は消えていった二人に余計なことをしてくれたなと非難がましい視線を送りながらも、二人っきりというこの状況をどう切り抜けようかと考えるが、突然の出来事ばかりで頭の処理が追いついていない。そんな状態でいい案が思いつくわけもなく、ただただあたふたするしかなかった。


「落ち着け」


「ひゃっ!?」


 そんな私を見かねたのか、奏君は私の首元に冷たいペットボトルを当てる。あまりの冷たさに私の思考は打ち切られ、思わず声を上げた。


「今頃自分の成長を自覚したってところか。早過ぎる成長も困りもんだな」


「…そんなに進んだかな?」


 奏君に指摘されたことは私の状況を的確に突いてきていると思った。だけど、進んでいるという実感があまりなく私は奏君に聞き返す。


「俺から見たら相当進んでるぞ」


「そっか」


 奏君が言うのなら間違いない。


 私は何の疑いもなくそう信じられた。


「ほらさっさと立て、ここじゃ周りの視線が痛い」


 諦めたような苦笑いを浮かべ、後ろに流し目を送る奏君。その視線の先に何があるのか気になり、少しだけ背を伸ばして見ると私達の様子を見ている同じクラスの男の子達がいた。


「ご、ごめん。私のせいでまた迷惑をかけて」


「今更だ。とりあえず何処か人目のないところに行こうぜ。何なら保健室にでも行くか?」


 そう言って、戯けたように笑いながら立ち上がる奏君。私もその後を追うように立ち上がり彼の隣に並ぶ。


「それは保健室の先生に迷惑だから遠慮しとくよ」


「そりゃそうだ。何の用事もない俺達が言ったら、門前払いされるに決まっている」


「ふふっ、そうだね」


(やっぱり奏君といると落ち着くな)


 さっきまであんなに奏君といると心が乱れていたのに、今は不思議と落ち着いている。

 だから、あの気持ちはきっと何かの間違い。


 私は気付きかけた自分の気持ちに目を逸らした。







『焦ったい』








 しばらく私達が校舎の中をしゃべりながら歩いていると、私の心を掻き乱すもう一人の男の子が目の前に現れ声を掛けてきた。


「こんなところにいんだ小鳥。探したよ」

「…あっ」


その人物は私が好きだった人。ゆーくん。

 安堵の表情を浮かべるゆーくんはいつも通りなはず。なのに、何故か瞳は濁っているように感じる。

 私はこの時、初めて大好きだった幼馴染みを怖いと思った。




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あとがき

大ヒントを入れました。僕の気持ちじゃないです。



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