第30話 球技大会前

 

「球技大会か…怠いな」


 バイト漬けだった休日が終わり、月曜日が始まった。

 一限目のLHR。

 球技大会のチームを決めるためのアンケート用紙が配られ、それを前の席から受け取り目を通した俺は思わず心の声を漏らした。


「あれ、そうなのかい?湊川は運動が得意だからこういう行事は好きなタイプだと思ってたいたんだけれど」


 俺の声に反応して、隣の席の黒瀬が意外そうな顔でこちらを見つめてくる。


「嫌いではないんだがこの日用事があってな。散々走り回った後に行くと思うと楽しみより、面倒くささの方が勝ってな。つい口が滑っちまった」


「あぁ、なるほど。球技大会の後に用事バイトがあるのは確かに私も勘弁願いたいね」


 黒瀬もバイトをしているため、用事とぼかしを入れながら俺の考えていることに共感し、苦笑いを浮かべた。


「サッカー、ソフトボール、バスケ、バレーか。どれも面白そうではあるが、多分俺はサッカーだな」


 再びプリントに視線を戻し、内容を確認した俺はシャーペンを持ちサッカーに丸をつける。


「何故だい?」


「単純にサッカーは男女混合じゃないからだ。女子がいるから遠慮して、満足にプレイ出来ないとか嫌だからな」


「湊川らしい答えだね。優しい君らしい」


「そうか?ただ、女子が邪魔って言ってるクズ野郎だぞ俺」


「確かにそう言う受け取り方もできるけど、普段の湊川を見ていれば分かるさ。君が誰かを思いやれる優しい人だということくらい」


 突然黒瀬に褒められた俺は照れ隠しに自虐するが、黒瀬は子供を諭すかの如く優しく微笑みそれを否定する。


「……よくそんなくさいこと言えるな黒瀬は」


「くさいかい?私は思ったことを言ってるだけなんだけれど」


 キョトンとした表情で、こちらを見つめてくる黒瀬。


「はぁ〜、もういい。これ以上何言っても無駄そうだしな。それより黒瀬は何の競技選ぶんだ?」


 これ以上この話をしたら、俺の心が保たないので強引に話題を変える。


「そうだね。私はバレーかバスケかのどちらかにしようかと考えているよ。親のおかげで私は普通の女の子よりも背が高いから」


「確かに黒瀬は背が高いよな。俺と同じくらいだろ?」


「七十五だよ私は」


「俺が七十六だからマジで同じくらいだな」


 目を少し大きく見開き驚いたという表情をしているが、俺は漫画の設定集で黒瀬の身長は知っているのでこれはわざとだ。


「なら、バレーにしたらどうだ?女子だけでするから活躍できるだろ」


「んー。私はこの二つが私の強みを活かせるから挙げただけで、別に競技自体は何でもいいんだ。結局小鳥とアリサに合わせるから。けど、まぁ恐らく小鳥やアリサの性格上バレーを選ぶだろうけどね」


「あぁ、確かに」


 黒瀬や水瀬、坂柳は立派な胸部装甲をお持ちのため男子の邪な視線を集めやすい。

 黒瀬は異性からの視線に何とも思うことがないのか飄々としているが、坂柳や水瀬は違う。出来ることならその視線から逃れたいと思っているはずだ。

 だから黒瀬の言う通り、男女混合の競技を選ぶことはほぼないだろう。


「応援には行かない方がよさそうだな」


「別に湊川なら大丈夫だと思うよ。というか、小鳥は喜ぶんじゃないかな?」


「何でだよ?」


 黒瀬の発言に俺は思わず、そんなわけないだろうと呆れ顔で聞き返す。


「理由はないんだけど強いて言うなら勘かな?」


「何だよそれ」


「まぁ、多分大丈夫さ。うん。私は気にしないし私だけを応援してくれるのなら問題ないよ」


「病んでるのか?お前」


「冗談さ。流石にそこまでされたら、私でもストーカーみたいで気持ち悪いと思うよ」


「じゃあ、絶対行かないわ」


 この時、俺は言葉通り行かないつもりでいたのだが、この日夜に水瀬から『私湊川くんの試合応援にいくから、湊川君も良かったら私達の試合応援に来てね』と、メッセージが来たので女の勘は侮れないなと思った。

 そんなわけで、俺は当日水瀬の応援に行くことになった。






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