第29話 メッセージ
「ふぅ、疲れた〜」
私は家に帰りバイトの制服と着ていた服を洗濯カゴに投げ入れ、シャワーを浴び寝巻きに着替え髪を乾かした後、ベッドに倒れ込む。
「湊川君に送ってもらって正解だったかも。これ絶対一人だったら、途中で気が抜けて帰るのにもっと時間掛かってた」
湊川君に感謝しないとなぁと口元を緩め、スマホを操作して彼とのトーク欄を表示させる。
そこに書かれているのはなんんてことない話ばかり、でも実際に顔を合わせて話をしてみれば心の声を曝け出してしまう不思議な安心感を持っていて。
私と同じく、ううん私以上に不安定な男の子。
彼が時折見せる悔いるような表情は本当に辛そうで、一体過去にどんなことがあったのか聞きたくなる。
でも、触れてしまえば湊川君がまたあの表情をすると思うと、躊躇ってしまい今も聞けずにいた。
分かっているのは彼が失恋していることだけ。それだけだ。
「こうやって振り返ってみると、私って自分のことばっかり。本当嫌な女」
湊川君は私の悩みに真摯に向き合ってくれているのに、私は自分の悩みにすら向き合えていない目を逸らしているだけ。本当に駄目な女。
「ゆーくんは、どうして私を選んでくれなかったんだろう?」
八つ当たりなのは分かっている。
だけど、そう言わずにはいられない。私はゆーくんに沢山の初めてをあげた、手を繋ぐこと、腕を組むこと、間接キスをすること、あーんをすること、キスをすることや胸を揉まれること、裸を見られることなど本当に沢山の初めてをゆーくんに捧げた。
けれど、ゆーくんは私を選んではくれなかった。私の親友であるなっちゃんを選んだ。
私を選ばないなら、何で私の初めてを沢山持って行ったの?
もっと、早く答えを出してくれなかったの?
そのせいで、負け犬の醜い遠吠えが私の頭の中から離れないんだよ。
もう嫌だよ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
本当に嫌だ。
大好きだった人達を嫌いになっていくのが嫌。
湊川君が差し伸ばしている手を私は掴んで、引き留めているだけなのが嫌だ。
スマホを手放し、私は両手で顔を覆う。
「……どうしたらいいのかな?」
私以外誰も存在しない部屋の中で、誰に向けたのかも分からない問いが虚しく響く。
………ピロン。
静寂に包まれていた部屋を壊すかのように、スマホからメッセージ音が鳴った。
「……ん」
正直今は何もしたくない。無視して寝てしまおうかと考えたが、眠気は一切ないため無視することは気が引け、私はスマホに手を伸ばした。
くしゃくしゃでブサイクな顔のせいで顔認証を通らないのでメッセージが見れない。仕方ないから私は手動でロックを解除した。
「ッツ!?」
湊川 大丈夫か?疲れてないか?
表示されたメッセージを見た瞬間、私は息を呑んだ。
まるで、私の状況が見えていてそれでも、あえて触れないようにする心配の言葉が書かれている。
無機質な機械のはずなのにそこには確かな
(どうして、湊川君はいつも私が苦しんでいる時にこういうことしてくるかな)
私の心の声が聞こえてるんじゃないかと思わずにはいられないタイミングで、彼は意図していないんだろうけど私の欲しい言葉をくれる。
心が読めるんじゃないかと一瞬考えたけど、すぐにそんなことないかと笑い飛ばし、私は彼に返信を書き送った。
小鳥 全然大丈夫じゃない。足が棒みたいになって動けないよ。
すると、すぐに既読がつき湊川君から返信が来た。
湊川 七時間も立ってたらそりゃそうだろうよ。送ってて正解だったな笑
小鳥 そうだね笑。ありがと
湊川 軽いなぁ〜
私は本気で感謝しているのに、文章のせいで上手く伝わっていない。そのことに私は少し不満を覚えた。
小鳥 そんなことないもん
と、送った後私はありがとうという猫のスタンプを連投する。
湊川 おっも!!?
動くスタンプを送ったせいで、スマホの処理が追いつかず、動き重たくなったからか湊川君から悲鳴のメッセージが送られてきた。
小鳥 どうだ分かったか!
小鳥 ドヤっ(ネコが胸を張るスタンプ)
湊川 分かった分かった
湊川 降参(ネコがボロボロで白旗を振るスタンプ)
「ふふっ」
彼とのやりとりが楽しくて頰が緩み、冷えた心が暖かくなっていくのを感じる。
(ごめんね。駄目だって分かってるんだけど今はまだ甘えさせて)
私は心の中で湊川君にそう謝り、メッセージの続きを送る。
そのやりとりは私が寝る直前まで続いた。
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あとがき
女の子視点はやっぱり難しいですね。
後普段書かないんですけど書きます。
評価やレビュー、応援、コメントの方をお願いします。カクヨムコンで受賞して書籍化したいと考えているのでして欲しいなと少しでも思っていただけたらしてくださると飛んで喜びます。
以上です。失礼しました。
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