第24話 雨宿り
「まだ、帰ってなかったってことは何処か行ってたの?それともバイト?」
水瀬は俺に持っていたタオルとカイロを渡しながら、制服を着て何処に行っていたのか聞いてきた。
「ありがとうな。バイトじゃなくて宮島に行って、一人でぶらついてた」
礼を言ってタオルを受け取ると、それで髪を拭きながら水瀬の問いに答える。
「へぇ、宮島かー。夏以来行ってないな私」
「まぁ、海水浴か水族館くらいしか高校生が楽しめる場所ないから夏以外基本行かないよな」
「そうだね。まず友達とわざわざ宮島に行こうって話にならないし、神社は縁切りで有名だからカップルも寄り付かないし、本当夏くらいかな高校生があそこに行くのって」
「小学生や外国人観光客が行く場所って感じだよな、あそこは」
頭の水分がタオルで取れなくなったところでタオルを首にかけ、空模様を伺うと雨足は強くなっておりこのまま帰ったら間違いなく風邪を引いてしまう。それは流石に不味いと思い、母親に迎えに来てくれと連絡をしておいた。
「水瀬は…買い物か」
「うん、今日お父さんとお母さんが遅いこと完全に忘れて寝てたんだけど、ついさっき起きてそのことを思い出して買いにきたって感じかな」
だらしない格好でお恥ずかしいと、トートバッグを持ち上げ顔を隠す水瀬。
今着ている制服やクリスマスの日見た私服ではなく、白のパーカーの上に茶色のマウンテンジャケットを羽織り、下はデニムパンツと白のスニーカーとかなりラフな格好をしており化粧も薄い。が、元の素材が極上だからだろう何を着ても絵になる。
「だから髪の毛跳ねてるのか」
「えっ、うそ?ちゃんと治したはずなんだけど。湊川君何処か教えてくれない。私スマホ家に置いて来ちゃって確認できないんだ」
俺の指摘を聞いて、水瀬は頰を羞恥で赤く染めながら寝癖がついている場所とは程遠いところを指ですく。
「右耳の横らへんが横に跳ねてる」
「本当だ。うわぁ、恥ずかしい。湊川君普段から私こんなに抜けてないからね。今日はたまたまだから」
「分かってるよ、そんくらい。学校で水瀬が寝癖つけてるとこ見たことないし」
髪の毛を必死にすきながら、涙目でこちらに弁明をしてくる水瀬に俺は苦笑いを浮かべる。
「その言葉信じるからね。うぅ〜友達に会うって分かってたらもう少しオシャレしたのに」
「この時間に駅付近にいる奴はいないから気が緩むのは仕方ない。今日は運が悪かったってことで割り切ろうぜ」
「……無理。何か分からないけど凄い恥ずかしいから」
「そ、そうなのか」
「う、うん。リサちゃんやみーちゃんに見られるのは平気なんだけど、湊川君が男の子だからかな?凄い恥ずかしい」
そう言って俺、から顔を逸らしながら髪を弄る水瀬。
「なんか、すまん」
なんて言葉をかけるのが正解か分からず、俺はとりあえず謝罪の言葉を口にした。
そして、しばらくの間静寂が二人の間に生まれなんとも言えない空気が流れる。
この空気をどうしたものか?
そんなことを考えていると、また水瀬の後ろ髪が跳ねていることに気付いた。
(これは指摘すべきか?)
先程、寝癖を指摘してかなり恥ずかしがっていた水瀬。
そんな彼女にまた髪が跳ねていると指摘できるほど俺のメンタルは強くない。
口で言わずにどうにか出来ないかと考え、導き出されたのは俺が彼女の髪をすいて寝癖を治してやるという結果に至った。
が、こんなことをしたら普通にやばい奴なので俺は踏みとどまる。
そんなわけで俺はどうやって水瀬の寝癖を治すべきか四苦八苦していると、水瀬がが口を開いた。
「湊川君のバイト先って募集今してるかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます