第23話 モブが主人公を嫌いな理由
「…何で買ったんだろうな」
帰りのフェリーの上。潮風に吹かれながら俺は今日買ったガラス玉を片手で転がし呟いた。
あの子と過ごした幼少の頃の思い出。
それは、ありふれた一夏の一ページ。記憶を相当掘り返さなければ出てこないくらい奥底に眠っていたものなのに、今日は何故か瞼を閉じれば鮮明に思い出すことが出来る。
普段あの子との思い出を思い出した後は、後悔と罪悪感のみが残るのだが、今はなんとも言えない心地よさだけが残っている。
「……何でだろうな?ホント」
再度疑問を口にしながら、俺はガラス玉をまた片手で転がすのだった。
◇
「間もなく五日市ー五日市ーお出口は左側です」
そのアナウンスを聞いた俺は席から立ち上がりドアの前に向かった。
見知った顔を見て思わず、俺は足を止めた。
「今日楽しかったね〜ゆう」
「う、うん。楽しかったね夏美」
主人公と勝ちヒロイン。
堺と星川が制服姿で腕を絡ませ、ドアの前に立っていた。
「あっ、ゆう。小鳥のこと考えてたでしょ。駄目だよデート中に他の女のこと考えるのは。それに今は私達が小鳥に何かしようとしてもあの子は喜ばないよ」
「そうだよね…」
複雑そうな顔を浮かべている堺。
星川はそんな堺を見てはぁと、ため息を吐くと堺の唇と自分の唇を重ねる。
「なっ!?何するんだよ急に!」
「私の彼氏が辛気臭い顔をしてたから元気付けてあげようと思って。ほら行くわよ。あっ、皆さんお騒がせしました」
ペコリと周りに頭を下げた後、星川は堺を引っ張り電車から降りて行った。
(助かった)
爪の跡がくっきりと付くほどの力で握っていた拳を解き、冷静になり俺も電車から降りた。
星川がもしあそこで堺のあの顔を止めていなければ、俺はあの時と同じようにアイツを殴っていたかもしれない。
堺のあの顔は〇〇を振ったあの男と同じだった。
自分の選択に自信が持てず、周りの人を不安にさせるそんな顔が、俺をどうしようもなくイラつかせる。
あんな顔するくらいなら、もっと早く決断をするべきだ。
何故、お前がそんなに辛そうにする?傷つけたのはお前だろ。
お前に彼女の痛みを分かるわけがないだろ!
同情なんてするな、気持ち悪い。
そんな言葉が頭の中を巡り、怒りがふつふつと湧いてくる。
だが、奴らに痛みを与えてはいけない。
奴らはそれを自分の中でその言葉を都合の良いように受け止めて、楽な方へ逃げようとする。
『ふざけるな。お前にそんな資格はない!優柔不断なせいで二股という最低な行為をしていたんだ!一生そのことを後悔しろ。恥じろ。
好意を向けられていると分からなかった?
どっちも魅力的過ぎて答えがなかなか出せなかった?
反吐が出る。
虫唾が走る。
捕まれよ。
死ねよ。
お前は本来後ろ指を一生刺されなければならないことをしたんだ。それを子供だからと言い訳して逃げるな。受け止めろ。自分が最低な奴だと自覚しろ。
謝るな!許しをこうな。それはお前のことが好きだった〇〇に対する冒涜だ!』
前世俺はそう言って激怒しあの男を殴った。
そして、そいつは泣いた、泣いた、泣いた。自分のしたことを自覚して。やがて、あの男は立ち上がり何かを決意したような顔をしてこう言い放ったのだ。
『僕別れるよ』
そして、あの日初めて俺は人生で一番激怒し親友をまた殴った。
(……嫌なことを思い出した)
人の流れに身を任せ気づけば、駅の改札を抜け外に出たところでポツリポツリと頭に雨粒が当たった。
天気予報では降らないと聞いていたのだが、もしかしたら俺のこの暗い気持ちに反応したのかもしなれい。なんて、ボンヤリと考えつつ雨の中傘もささず歩いていると、突然名前を呼ばれた。
「湊川君?」
「……水瀬」
呼ばれた方向を向くと、そこには雨宿りをしている私服姿の水瀬が居た。
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次回 ようやく糖分が顔を出す予定。お楽しみに
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