第22話 謎の包み

 

 放課後、現代文の先生から有り難い軽いお小言を頂き、スマホを返していただいた俺は現在一人で帰っている。

 学校からかなり離れたところまで来たせいか、自分以外に高校の制服を着ている人はおらず、小学生や中学生が楽しそうに会話をしながら俺の横を通り過ぎていく。


「おい!見ろよあれ仮面ドライバーブレイディアだ!楽花らいか見に行こうぜ」


「落ち着いてせつ君!仮面ドライバーは逃げないから!そんなに急がなくても逃げないから!」

 

『〇〇◯。あそこに行こうぜ」


『ちょっ、ちょっと待ってよ!?』


 大きな声を上げ、日朝の特撮ヒーローに向かって走っていく少年とそれを追いかける少女。

 その光景に、あの子と過ごした幼き日の思い出を重ね、自分とは違ってあの少年にはあの少女と添い遂げて欲しいと何となく思った。


 そんなことを考えたからだろうか?家に向かっていたはずの足は、気付けば駅に向かっていた。

 母親に今日の夜は友達と食べて帰ると嘘のメッセージを送りポッケにしまい、ICカードをかざして改札をくぐる。

 電車の次の到着時間を見ると、二十分後と表示されていたので空いているベンチに腰掛け、しばらくスマホをいじっていると冬の強い寒さのせいで手がかじかんだ。

 息を吐いたり、ポッケに手を突っ込んだりしたがその程度では治るわけもなく。

自販機でホットミルクティーを買いそれを両手で握ることで少しずつ手の感覚が戻ってくる。


「三番乗り場、岩国、宮島行きが間もなく到着します。お待ちのお客様は安全のため白線の後ろまでお下がりください」


 そのタイミングで、電車の到着を知らせる放送が流れた。俺はミルクティーを鞄にしまい立ち上がると電車に乗るため人達の列に並んだ。






 電車に揺られ、船に揺られ俺がやってきたのは観光名所である宮島。

 フェリー乗り場から出ると何十匹もの野生の鹿が街中を歩いていた。


『見てみて〇〇。鹿さんだ!可愛い』


『餌やろうぜ。鹿せんべいが良いんだろ。俺知ってるぜ』


『鹿せんべいは奈良だよ。〇〇』


『そうだっけ?じゃあ、何か野菜スティックか何か買おうぜ』


 懐かしい思い出に浸りながら、俺は宮島を歩く。


『もみじ饅頭作りの体験だって、面白そうだね!〇〇』


『面白そうだけど、俺餡子食えねえからなぁ〜』


『餡子以外にチョコ味も作れるって』


『マジか、じゃあやるわ。絶対〇〇より綺麗なの作ってやるからな!』


『負けないよ!〇〇』


 老舗の和菓子屋。


『ポテトうめぇー』


『〇〇って、屋台にフライドポテトあったら買うよね』


『うめぇからな。食うか?』


『食べる。……ここのポテト美味しいね』

 

『だろ?塩味が効いてて……ってのわぁ!食べるな!俺のだぞ』


『鹿さんこれは〇〇のだから駄目だよ!』


 市場に入る前の屋台。


『ここ沈まないのか?足元ギリギリまで水が来てるぞ』


『大丈夫らしいよ。ここは何百年も水没したことないんだって』


『ヘェ〜凄いな。昔の人の知恵ってやつか』


『まぁ、他のところは台風が来たら水没するんだけどね』


『駄目じゃん!』


 海の側にある神社。


『ここで写真撮ろうよ!波が静かだから水に鳥居が映って幻想的だから』


『おっし!任せろバッチリ撮ってやるからポーズ取れ』


『何言ってるの〇〇と一緒に撮るの!パパお願い』


『ちょっ!おま!引っ張るな分かった分かった。一緒に映るから』


 海の中に立つ大きな鳥居。


『これやる』


『何これ?キラキラしてて綺麗だね。何でくれるの?』


『記念だよ。記念』


『そっか。ありがとう〇〇大事にするね』


 あの子に俺と同じものを持っていて欲しくて、渡した綺麗な色のガラス玉。


「おっちゃん。これ一つくれ」


 あの時と、同じものを見つけた俺はつい店主に声を掛けていた。


「毎度あり。って、兄ちゃんこれ二つ分の金額だぞ?」


「……。ゴメン間違えた。でも、それでいいよ。お釣りはいらない」


「気前のいい兄ちゃんだな。なら、オマケにこれやるよ」


 そう言って、おっちゃんは俺に謎の包みをくれた。


「何入ってんのこれ?」


「そいつは開けてみてからのお楽しみよ」


(そんな大したものは入ってないだろう)


「じゃあ、家に帰ったら開けるわ。じゃあな。おっちゃん」


 俺は謎の包みを鞄に入れ、おっちゃんに別れを告げその場を後にするのだった。


 

 奏が店を後にした後、店の奥から出て来た一人の少女が店主を睨んでいた。


「余計なことをしないで」


「嬢ちゃんは本当にそう思ってるのか?」


「……思ってる」


 少女は店主の問いに不機嫌そうに答えると店の奥に引っ込んでいった。


「素直じゃないね〜嬢ちゃんは」


 少女の反応に相変わらずだなと店主は苦笑いを浮かべ、奏が歩いていった方角を見つめるのだった。
















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