第8話 負けヒロインは初詣に何を願う3


 俺はただ黙って水瀬を連れて、水瀬の両親を探したが、当然残り四分でこんな大勢いる中から見つかるはずもなく、年を越した。


「あけましておめでとう。湊川君。今年も宜しくお願いします」


「あけましておめでとう。水瀬今年も宜しく」


 俺達は新年の挨拶を、人混みから外れた階段付近でした。

 数秒後、お互いのスマホがピロンピロンとメッセージが届いた音を立てる。

 俺と水瀬はしばらくの間、互いの友人達に新年の挨拶を送っていく。

 俺は定型文を送るだけなので、早く終わったが水瀬は一言二言他のことも送っているようで、かなり時間がかかっていた。

 その間に俺は親に、クラスメイトと会ったからそいつと回ることになったと連絡しておいた。

親からは、特に何も言われることはなく指定の時間までには車に戻って来るように、とメッセージが返って来る。

了解とスタンプを押し会話を終了した。

 水瀬の方は向くと、まだ返信に時間が掛かっているので、時間を潰すためにアプリゲームを開いたが、新年はどのゲームも人が集中するのでかなり重い。

 これは出来そうにないなと諦め、スマホをポッケにしまう。

 暫くの間ポッケに手を突っ込み、寒さに縮こまっていると水瀬の方は挨拶が終わったようで話しかけてきた。


「寒そうだね」


「そりゃ、冬真っ盛りだからな。そういう水瀬も寒そうだけど」


「あはは、ずっと素手で冷たい画面触り続けてたせいかな。手が少し寒さで腫れちゃってる。これ後から痒くなるから嫌なんだよね」


 水瀬は両手を口の前に持ってきてハァーと息を吐いた後、えへへ、やっちゃたと微笑む。


「分かる。手の感覚が戻るとむっちゃ痒くなるよな。俺それが嫌だからいっつも冬はカイロ持ってる。今二個あるけどいるか?」


 右ポケットから、カイロを一つ取り出して水瀬に差し出す。


「じゃあ、お言葉に甘えて貰おうかな。これ以上酷くなると大変だし」


 カイロを渡す際に触れた彼女の手はとても冷たく、こんなになっているなら早く渡すべきだったなと俺は反省した。


「…あったかい」


 水瀬はカイロを両手で持ち、幸せそうに呟いた。


 その後、しばらくお互い無言になる。


「なぁ、水瀬そろそろ並ばないとヤバそうだから並ばないか?」


「あっ…本当だ。沢山下から人が来てる」


 俺達は下から沢山の人達が来たのが見えたので、参拝客の列に並んだ。


「そういえば、参拝って何回頭下げるんだっけ?」


「確か、二礼二拍手だったはずだよ」


「そうなのか。ここ数年行ってなかったから完全に忘れて…る……な…………」


 前世では…あれ?前世の俺って何歳まで生きてたんだ。水瀬が出てくる漫画を読んだのが大学の時だから18歳までは生きてるはず。おかしい。ほとんど過去のことが思い出せない。思い出せるのは漫画の内容と、あの子が生きていた6年間の記憶だけ。それ以外は何も思い出せない。


ッツウ!


……救急車を呼べ!


……血が大量に…


……いやぁーーーーー!!嫌だ嫌だ嘘だ嘘だ、なんで……


……ねぇ、お願い目を覚ましてよ。〇〇君……


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い。

嫌だ、嫌だ、嫌だ。俺はまだ生きたい。


「ねぇ、大丈夫?」


あぁ、何で、何で?


俺を心配そうに覗く……その顔に…





……どうしようもないくらい












既視感を覚えているんだ?












-------------------------------------

あとがき

奏君の過去に何があるのか。お楽しみに。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る