第7話 初詣に負けヒロインは何を願う2


「こんばんは、凄い偶然だな」


 と、俺も水瀬に返事を返す。

 まさか、こんな所で会うと思っていなかったので本当に驚いた。


「ふふっ、本当にね」


「水瀬もあれか?今年、受験生だから来た感じか」


「そうそう、親に半ば無理矢理ね」


「俺もだ」


 そう言って、俺達はお互いに苦笑いを浮かべた。


「親御さんはどうしたんだ?一緒じゃないみたいだけど」


 俺は辺りを軽く見渡しながら、水瀬が何で一人なのかを聞いた。


「友達のところ行くからって言ってさっき別れたの。多分もう上がってるんじゃないかな?そう言う湊川君こそ親御さんは?」


「俺は車酔いでさっきまで休んでたんだ。だから俺の親父達も上がってるよ」


「だから、そんなに顔色が悪いんだね。普段に比べたらかなり色白だよ。大丈夫?」


 水瀬は心配そうな表情を浮かべながら顔を近づいてくる。


(まつ毛なっが)


「っ!…だいぶ落ち着いたから大丈夫だ」


 あまり気にしていなかった水瀬の魅力を発見し、引き込まれそうになるも、それは不味いと思い直し気丈に振る舞う。


「そっか、なら良かった」


 彼女は心配そうな表情から一転、今度は花の咲いたような柔らかな笑みを浮かべた。


「〜〜!?」


 俺はそのあまりの破壊力に思わず顔を背ける。

 流石はヒロイン、テレビで見るアイドルなんて比べ物にならないくらい凄い。

 顔にもの凄い熱が集まるのを感じる。それを誤魔化すように、ペットボトルの中身が空になるまで飲み、自販機の横にあるゴミ箱に捨てに行く。

 その間に、大きく深呼吸をし、はやる心臓を落ち着けようと試みるが上手くいかず、水瀬の元に戻っても少し早いままだった。


「どうしたの急に?」


「水瀬のせいだとだけ言っておく」


「それどういうこと?私何かしちゃった」


「いや、たいしたことじゃない。ただ、知らない方がいいと思うぞ」


 俺はそう言ってポッケに手を突っ込み、水瀬を置いて境内に向かうため階段を上り始めた。


「そういうのもの凄い気になるんだけど!ねぇ、ちょっと」


「足元、気を付けろよ」


「雑にはぐらかしたね」


 そんな感じで、俺達は階段をゆっくりと上がって行くのだった。


 階段を昇りきり境内に入るとまるで人がゴミのようげふんげふん、とどこかの大佐が言いそうなことを思ってしまうくらいには人がたくさんいた。


「こんな中から親父達探すの無理だろ。これ」


「そうだね、流石にこの中で見つけるのは…」


「どうすっかな、後もう少しで年越しちまう」


 スマホに表示される時刻は十一時五十六分。

 このままだと水瀬は俺と年越すことになる。俺にとってはこんな美少女と一緒に年を越せるなんて役得でしか無いんだが、水瀬にとってはそうではないだろう。


「水瀬、親の写真持ってるか?」


「う、うん。一応持ってるけど」


「じゃあ見せて貰ってもいいか?これから探すのに顔が分からないのは致命的だからな」


 水瀬は俺がそう言うと少し目を大きく見開いた後、微笑んだ。


「湊川君は本当に優しいね。でも気にしないで。家族とは毎年一緒に年を越してるし、友達と一緒に年越しをしてみたいって前から思ってたから」


『嘘だな』


 反射的にそう言いそうになった。

 だけど、俺はそれを何とか堪えた。

 これを言えば、彼女を傷つけてしまうと分かっているから。


 いや、嘘だ。


『そんなの分かってるよ!』


 言ってしまえば、水瀬もあの子と同じ道を辿るのではないかと思ったから俺は言えなかったのだ。


 本当ならここで踏み込むべきだ。


 だけど、臆病な俺には……。






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あとがき

どんどん文字数がぁぁーー少なくなっていく。











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