第4話出会い

「だれ、出てきなさい、出てこないと殺すわよ」


 王都を出て七日、馬車に乗って帝国への街道を進んでいたが、既に六度も盗賊の襲撃を受けてしまっている。

 この国のもっとも主要な街道ですら、安全なのは王都から一日だけ。

 王都から一日分離れれば、盗賊が襲って来るほど治安が悪い。

 それほど盗賊が多いというのは、盗賊にならなければ生きていけない国なのだ。

 盗賊から賄賂をとり、民を護る事を放棄している騎士しかいない国なのだ。


 だから女一人、馬車で旅をするというのは、盗賊に襲ってくれといっているも同然で、今日もすでに一度盗賊団の襲撃を撃退している。

 いや、民に害を与える盗賊を見逃しはしない、皆殺しにしてやった。

 これでも前世ではヤンチャしていたので、喧嘩慣れしているのだ。

 まあ、人殺しはした事はないけれど、この世界に来てからは、聖女として人殺しも経験していた。


 何故一日一度しか襲撃されないかと言えば、盗賊団に縄張りの関係だ。

 縄張り争いが行われることもあるが、基本と盗賊になる者は、喰えない人間だ。

 多くのお宝を奪うというよりも、飢え死にしなければいいのだ。

 他の盗賊団と戦うよりは、最低限の喰い物や、喰い物が買える財貨を奪えればいいので、既存の縄張りの外に手に入る獲物に合わせた新しい盗賊団が現れる。


「……おなか、すいた」


 私の誰何を受けて出てきたの、とても幼い子供だった。

 一人なのは気配で分かっていたが、これほど幼い子供だとは思っていなかった。

 てっきり盗賊団に入る前の浮浪者か、盗賊団を追われた大人だと思っていた。

 だが、幼い子供という事は、貧しい家が子供を山に捨てたか、盗賊団の襲撃を受けた村や旅人の生き残りだろう。


「こちらに来なさい、焼けた肉をあげます」


「……うん……」


 ぽてぽてと、おぼつかない足取りで、垢と泥にまみれた子供がやってきた。

 服とも言えないズタボロの葛布で、僅かに身体を隠しているだけだ。

 しかも垢と泥と汗のきつい臭いがして、生まれて一度も清潔にした事がないと思えるほど、不潔不衛生な状態だった。


 本当なら、肉を貪るように食べているのを止めさせてでも、直ぐに身体を洗って清潔にさせたかった。

 だが、そんな無慈悲な事はできない、いや、それ以前にそれは身体に悪すぎる。

 前世の私には、難波で警備員をしている兄貴分がいて、彼から色々聞いていた。

 浮浪者が冬でも生きて行けるのは、身体を覆っている垢と皮脂のお陰だと。

 浮浪者が身体を清潔にしてしまうと、冬の寒さに耐えられず死んでしまうのだと。


「誰もとらないから、ゆっくりとお腹一杯食べなさい」


 私の分は、保存食を食べればいい。

 この子の服は、明日襲ってくる盗賊の服を奪えばいい。

 この子を清潔にするのは、温かい服を手に入れて、食べた栄養が身についてからにしたほうがいいでしょう。

 

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