第230話 迷う脚
「この手を離してもらおうか」
シャバーニに掴まれた腕を振り解こうしてもがっちりと掴まれた腕は逃げる事は出来なかった。腕を動かそうとしているのは分かるけどその場から動かない。
「今大きな声が聞こえた。お前の声だな」
「人違いじゃないかな。私はフランソワさんと話をしていただけさ」
白々しく言うウェルズの表情はさっきとは打って変わって大人しくなっている。
掴まれてない方の手を上げて無抵抗を装うように見えた。
「信じられないな」
「どうしたら信じてもらえるかな」
ウェルズの言葉が終わる間際に、掴まれてない右の手はさっきまで開かれていたのが拳へと変わりシャバーニの腹部への攻撃は防御される事なく直撃した。
「離せよ! 暑苦しい!」
不意をつかれたシャバーニは一瞬呻き声を出した。
反対にウェルズは左手を振り解いてシャバーニへと追い打ちの蹴りを横腹に入れた。
それでもシャバーニはその場からほとんど動く事なく私の前に壁として立ってくれていた。
「間違いだったらすみませんと謝る気だったのですが違うみたいですね」
二回の攻撃を受けてもシャバーニは私の心配をしてくれていた。
「間違いなんかじゃない。助けて」
「もちろんです」
この場を凌げたら。助かる。私の中に一縷の希望が灯った。シャバーニの言葉は心強かった。
「これは困りますねぇ。まぁいいでしょう」
独り言を呟くウェルズはどこか不気味だ。
痩せた身体も相まってどこか幽霊のように見える。
そしてウェルズが動いた。
一直線にシャバーニへと殴り込む。今度はしっかりと防いだ。だけど、シャバーニに反撃の機会はやってこない防戦一方だ。
「お優しいじゃないか暑苦しい奴!」
ウェルズの攻撃も早いけど、それだけじゃないように思えた。
「反撃したら彼女が危ないもんなぁ!」
理由は私の存在だった。後ろに私がいるから盾になっているのだったら。
シャバーニの後ろから駆け出した。これならシャバーニは守りに集中しなくていい。
「逃すかよ」
私に向けられた言葉は刃物のような鋭さを感じた。
背筋に何かが走る。悪寒だ。
「そのまま逃げてください」
さっきと同じようにシャバーニがまた私とウェルズの間に入る。ただ、今度はさっきと違ってシャバーニが拳を繰り出しながら。
ウェルズへと突き出された拳は防がれた。そして返しに腹部へとまた一撃が入り、そのままさっきと同じく脚のでの追撃が入る。
「守っても痛いんだようぜぇな。おい、聞こえてるか暑苦しいの」
シャバーニの反応はない。地面に膝をついても倒れない姿は岩のようだ。
それでもウェルズは足蹴にするのをやめない。
「いいから……逃げて」
捻り出すような声は微かに聞こえた。その言葉に従うのが正しいのか分からない。だから私はその場に足を縛り付けられたように立ち尽くした。
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