第229話 救いの腕
気分は最悪だ。結局ウェルズの企みに対しての動きが取れないまま今日まで来てしまった。
ただ、唯一の希望はユリに相談出来ること。それさえ出来れば何か起こせるかも知れない。だけど、それと同時に彼女を危険に晒すかも知れないと思うと気が引けてしまう。
今日はアン達とは分かれて行動する事を伝えている。出来るだけ今の私のそばには居てほしくなかったから。
交流会が始まる時間になると私は人の流れに紛れて門を潜った。生徒の波に紛れながらまずは校庭へと見に行く。いつもなら彼女は校庭にいる。
「見つけましたよ」
聞き覚えのある声。それは男の声。
「そんな嫌そうな顔をしないで下さいよ」
ウェルズがいた。このタイミングで見つかると言う事は既に門の所で見つかっていたのかも知れない。
ただ、ウェルズにしては何かが足りない。そうか、一人なんだ。いつも一緒にいる男がいない。なんとなく違和感を覚える。
「さぁ、校庭へ行きましょうか」
周りを歩く他の生徒達の目も立ち止まりはしないけどこちらに向いている。
私はウェルズに返答する事なく、走って校舎へと向かった。校庭に行けばウェルズの思う通りになる、だから逆方向へ。今はただ距離を取りたかった。逃げても解決はしない。だけど、今日をやり過ごして、あいつの機嫌を取って、時間を作ればなんとかなるかも知れない。それに賭けるしかない。
立ち止まる。息が続かなかった。一度の呼吸が重い、それを何度もしていつもの呼吸に戻そうとするけど、中々戻らない。
人目に止まらない所を可能な限り選んできた。ここからは見つからないようにユリを探す。その時が今を打破するための勝機だ。
心臓が爆発しそうな程鳴っていたのが大人しくなってくる。息の上がりも無くなってきた。そう思った瞬間に今度は背中に衝撃が走る。一瞬の痛み、そして咳き込む。
何が起こったのかは分かっている。壁に打ち付けられた。それは誰に? 簡単な話、目の前にいる男……ウェルズだ。余裕のある表情ではあっては目にはさっきまでの余裕はない。睨みつけるようにこちらを威嚇している。
衝撃で座り込んだ私の襟元を掴んで立たせて、壁を背にして逃げられないように拘束された。
「何をしている……?」
いつもの口調とは違う。別人のように思える。
「逃げるなよ……。お前は俺に恥をかかせるのか? 調子に乗るなよ?」
声は荒げていないけど、ドスの効いた声と襟元を掴む腕が私の恐怖心を煽ってくる。
「お前にはどうすることも出来ないんだから大人しく近衛騎士にしろよ」
襟を掴む腕に力が入る。首を絞められるようできつい。
「だから……そこまで拘るのはなんなのよ……?」
「お前の家柄以外ないだろ。お前みたいなやつに他に何があるんだ」
「あんたも相当なもんでしょ……」
声を捻り出すようにしないと話すことさえきつい。
「領地はない。所詮その程度の名前だ」
「あんたが近衛騎士なっても……領地はあなたのものじゃない」
「今の状況で良く言える。裏についてしまえばそんなものどうでもなるだろ」
ウェルズの目的。それはソボール家の乗っ取り。手段は私には分からないけどそれが私に執着する理由らしい。
「だったら……尚更……ダメね」
「なら従いたくなるようにしてやるよ」
壁に押し付けられて首が圧迫される。痛みと呼吸不全が同時に襲ってくる。
「おい! そこで何をしている!」
苦しい中で聞こえた声は聞き覚えのある声。力強い男らしい声が聞こえるとウェルズの力が抜けていく。
「そこから離れろ」
そう言って駆け寄りウェルズの腕を掴んだ。
そして私とウェルズの間に入り込んで私の盾となってくれた。
太く、たくましい腕が一層頼もしく見えるシャバーニがそこにはいる。
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