第228話 囚われのヤン

 湿った空気が匂いで分かるこの空間にも慣れた。人間ってのはすごいもので慣れたら最初は嫌な気分になっていた場所でも、あまり何も感じなくなるものらしい。

 お世辞にも綺麗とは言えない木の板で組まれた即興の床、目の前の鉄格子以外には寝床と着替えを洗う桶、最低限横になれるだけの木の板を組み合わせた寝床だけが、今歩ける空間でしかない。

 鉄格子の先には小さなドア、そして壁には窓がある。恐らくどこかの小屋なんだろうが、場所は分からない。そして見張りの男がいる。年齢はそう変わらないと見える。なんとなく見覚えがあるのは俺を襲ってきた奴の1人の様な気がするからだ。


「飯の時間だ。ほらよ」


 乾いたパンと色褪せたハムが先の平たい棒の上に皿が乗せられ渡される。俺は獣か何かと思われてるんだろうか。


「もうちょっと飯が美味くて、自由がきけば気分が晴れるんだけどな」

「黙ってろよ。大人しく捕まっとけ」


 学校を出た後、少し先で俺は数人の男に襲われた。

 不意打ちと多人数という事もあって俺の奮戦は虚しくこうして目が覚めると鉄格子の中に放り込まれてた。

 最初は脱出しようとやってみたが、あまり効果はなかったから、機がくるまでは大人しくしておくことにした。

 そもそもなんで俺が攫われたのか、まずそれが理解出来てない。

 学院のとこで襲ってきたやつが関係してるのかと思って聞き出そうにも見張りの男は何も話さない。

 時折交代で人は変わるけど、全員何も話さないから探りようがない。


「何やってんだかな俺は」


 自分でも正直この状況は理解出来てない。外で何が起こってるのか、今からどうなるのか全く分からない。だから、チャンスが来たら逃さない。今、出来ることは耐えること。

 そんな事を思いながら、自分の自由が聞く空間の一角に干されている替えの服が水洗いから乾いているかを確かめた。

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