「溜息だなんて、どうかされましたか？」

　アリスは綺麗な顔をきょとんとさせて私の方をまじまじ見る。

　今この場には私とアリスしかいない。いつものアンとユリは今日はクラスでの勉強会に出ているから賑やかさが半分になっている。

「ごめん、私そんな事してた？」

　自分でも意識していない行動だったのだろう。思わずすっとぼけた回答をしてしまう。

　あれから帰りはずっとウェルズの馬車になっていた。たった数日とはいえかなり気持ちが落ち込んでいる。

　ホリナはホリナで言っても聞いてくれず、疲労が溜まっていた。主に精神的な。

「ちょっと疲れてたの。気にしないで」

「まぁ、フランソワ様がそこまで疲れるなんて……」

　貴方の中の私は体力無限のロボットなのだろうか不思議になる。

「もし私がお手伝い出来る事があれば……」

　その言葉にウェルズとの初日での馬車のやり取りがフラッシュバックする。

　何かあって彼女達に危害が及ぶ事だけは避けなければいけない。ウェルズの用意している刺客が前に来たやつだけと決めつけるには早計すぎる。

　私はこの件に友達を巻き込みたくない。

「大丈夫よ。本当に」

　巻き込みたくないのは本心だ。でも、ウェルズの事を話せないのは……辛い。

「ちょっと疲れただけだから。ごめんなさい、嫌な気持ちにしちゃったわよね」

　アリスは私の言葉に首を横に振った。

「そんな事ありません。ただ、私はフランソワ様が心配だったのです！」

　健気にそう言ってくれるアリス。その言葉だけで私は少し気持ちが軽くなった。問題は何一つ解決していないけど。

「本当、アリスは優しいわね。ありがとう」

　「ありがとう」たった五文字だけど、面と向かって言うのは少し気恥ずかしい。

「分かりました。でも本当に辛い時は言ってください。私がなんとかしますので」

「分かった。その時は期待してるわ」

「フランソワ様、私は本気ですからね」

　アリスの透き通った目が私を見つめている。その瞳は綺麗で、鮮やかで、今の空の色より青く、見ているものを全て穏やかにするような澄み切った色。

　思わず私は飲み込まれそうになって目を背けた。

　茶化す様に彼女の肩を叩いてアリスと一緒に廊下を歩いた。

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