第226話 私なりの仮説

「さて明日の交流会ですが、その場で私の事をお願いしますね」


 結局ホリナへの私の訴えは受け入れられる事なく帰りは未だにウェルズの馬車になっていた。

 目の前で嬉々と話すウェルズの言葉を私は次第にスルーしていた。最低限だけの反応をして今の心境を外見に表すような態度を取っている。

 一応今のところ私の周りには少なくとも被害は出ていない。私が反抗しないからなのかは分からない。

 そしてムカつくことに今の状況を打破する方法が私にはない。相談できる人もいなければ、今の状況を察してくれる人も勿論いない。


「拒否権を発動するわ」

「いけませんよ。そろそろ腹を括って頂かないと」


 私の言葉などに脅威を感じないのか、適当に返される。

 私が動けば、友達に、ヤンに被害が出るかも知れないと思うとどうしても二の足を踏んでしまう。

 ヤンの事は真偽は不明だけど、ヤンの荷物は目の前の男が持っていた。それは紛れもない真実。だからこそヤンが捕まっていると言う話の信憑性は高い。

 ただ、私が思うのはわざわざ近衛騎士になるために犯罪に手を染めるのかが疑問だ。

 それを前に聞くと「当たり前です。それ程に魅力がありますから」と返されていた。

 でも、思い返すとウェルズの目的はなんなのかが少しだけど、読めた気がした。

 それはフランソワの持つ家柄だ。

 私の知っているゲームのフランソワはアリスから見れば悪役だった。民をいたずらに弾圧する様な、権力に紛れた嫌なやつ。

 だけど、私はあの両親からそんなフランソワが出来上がる事は考えることが難しい。

 だから私は思った。そんなフランソワが出来上がったのは目の前にいる男のせいだと。ウェルズはフランソワの近衛騎士として学院を卒業後に出てきていた。

 学院でのフランソワはアリスにちょっかいを出して来るものの子どもらしいものだった。なのに、卒業後は酷い有様だった。当時は気にもしてなかったけど、今考えると凄まじい変化ぶりだ。


「貴方はソボール家の領主としての地位を利用したいのよね?」

「いえ、貴方が魅力的なのですよ」


 はぐらかすのは本質をついているからなのか、それともとりあえず適当に返しているのかは分からない。私としては前者であって欲しくはないのだけど。

 私の仮説はフランソワが酷くなったのはウェルズが近くにいたからだと言うもの。

 どうやって繋がったまでかはゲームでは明かされていない。それこそ私達の書いていた二次創作の話でしかない。

 こうして私はウェルズの質問には答えず、私自身どうやればウェルズを憂いなく追い払えるか、結局思いつかないままで馬車は進む、私の要望を聞いてくれないホリナの待つ家へと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る