第223話 取引
「さて、それでどうされますか?」
「貴方の要求なんて飲むわけないじゃない」
「それでは大切な近衛騎士の彼はどうなっても良いと?」
「彼に手を出したら許さない」
「では条件を出します」
「条件?」
碌な事じゃないのは分かる。
「断れば他の近衛騎士、お友達の方にも何かあるかもしれませんよ」
明確な脅しだ。ヤンだけでは足りないと思ったのか。
「まずは彼女、今は怪我をされているとのこと療養中を襲われては大変なのでは? そして、私と入れ替えで勉強中の彼も今は何もありませんが、周りは如何でしょう? もちろん捕まえている彼も……」
「わざわざ犯罪予告してどうするのよ。貴方を犯人として突き出せばいい事じゃない」
「強がりですね。私と貴方だけの会話でどうこうなりませんよ」
「だって貴方が私の周りをどうこうするんでしょ、証拠は貴方自身じゃない」
「いえいえ、私は関係ありませんよ。ただ、世の中には裏で動く人間がいると言う事です。それに私の事を言われてもあまり効果はないかと思いますよ。信用がありますので」
「安い信用ね」
家柄の問題だろう。白も黒になれば、黒も白になる、家名と今までの表向きの顔が積み重ねた信用に随分と自信があるらしい。
ただ、頭で分かっていても今の言葉を簡単には流せない。
本気でそんな事をされたらアリス達に被害が及ぶかも知れない。
「卑怯者」
「欲しいものは手に入れる主義ですので」
余裕の態度は勝ちを確信しているかの様な振る舞いだ。
「貴方の判断で周りの環境が変わりますよ。よく考えてください」
この場を逃げるのは簡単。要求を飲めば終わる。フリでもいい。ただ、目の前の男がそれを予想していない様には思えない。
「要求は私だけを近衛騎士にすること。そして、私のみを近衛騎士にする事を次回の交流会で皆の前で宣言する事。対価は貴方の周りの平穏です」
周りに認知させて無かったことにさせないつもりらしい。まぁ当然の方法ではある。
「どうです? 信じられなければ試しにご学友を……」
「やめなさい!」
「その気の強い所も素敵ですね。ますます気に入りました」
「分からないのよ、貴方の狙いが、なんで私なのよ。さっき見たいな答えは要らない」
「秘密です。なんだって良いでしょうそんなこと」
「聞いていいかしら?」
「どうぞ」
「ヤンが停学になった事件。あれも貴方の差し金なの?」
「そうですねぇ」と言いながら下衆な顔が見え隠れする。
「彼の判断に任せましたが、良い結果になりました」
答えはYES。
ウェルズが仕込んだ弾がヤンに当たったらしい。
「私の周りの平穏って言うのはその人が動かなくなるって言う認識でいいのかしら?」
精一杯の虚勢を張る。
「どうとられるかはフランソワ様次第ですよ」
そこから少しの間言葉のやりとりはなかった。ただ、馬車の走る音が響く。
「貴方の判断に期待していますよ」
するとウェルズは立ち上がって馬車の扉を開けた。
「無事ちゃんと貴方をお送りさせて頂きました。明日もお届けさせて頂きますよ」
気がつくと屋敷についていた。周りを見る事もなく考えていたらしい。
馬車から降りて無言でその場からすぐに逃げたくて屋敷へと駆け込んだ。
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