　馬車の中で嫌な、居た堪れない空気が漂っている。もっぱらその雰囲気を醸し出しているのは私だ。

「私は嫌われていますね」

　嫌味ったらしく分かり切ったことを言う出すウェルズに余計に腹が立つ。

　返事をすると相手のペースに乗せられそうだから返事をすることもなく窓から見える外を眺める。

　日が沈み始めて空は茜色に染まりつつある。空を飛ぶ鳥が黒い点となって飛ぶ姿は普段じっくり見ないからこんなにも絵になるものかと感嘆してしまう。

「そうですね、折角ですので話をしましょう」

　私からしたら相手が一人で空回りしている様にも見えるのだけど、本人はそのつもりはないらしく、不敵な笑みは崩さない。

「せめて何かしら反応してもらえると助かりますが……」

　そんな言葉を尻目に私は今日の夕飯を考えている。ホリナの最近のレパートリーからすると魚だろうか。なんだか今日は肉が食べたい気もする。ストレスが溜まっているのかも知れない。

「そうですね。ではこう言えば話してもらえますかね。私を貴方の近衛騎士にしてもらいたいのですよ」

「嫌」

　これ以上の言葉はなかった。単純明確な一言だ。

「貴方は近衛騎士を既に三人抱えておられるのも知っていますよ」

　私の答えを聞かなかったのか、それとも理解していないのかウェルズは話をやめなかった。

「それでも私は貴方の近衛騎士になりたい。そして、他の近衛騎士などいらないでしょう。私がいればそれだけで事足りるでしょう」

　自慢げにそう話す様子はどこか子供じみている様にも見える。どうしてそんな自信満々に言えるのか私からしたら不思議だ。

「どうです、私を近衛騎士にしてくれませんか？」

「嫌、しつこい男は嫌われるわよ」

「そうですか、残念です」

　とりあえずは諦めたのか、手振りを添えて残念がるようにお手上げと言ったポーズをとる。

「ではこれでどうでしょう。貴方の近衛騎士のヤンと言う方の身柄は私達が預かっていると言ったらどうされますか？」

「は？」

　意味の分からない言葉が聞こえた。

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