第216話 行き場のない怒り

「……分かりました。今はそれでいいです」


 渋々了解した。ここで文句を言っても状況は悪くなる方でしかない。

 今は聞けるだけのことを聞きたい。


「ヤンはなんで言ったんですか?」

「『認める』と言いました」

「何を認めたんですか?」

「学院に入り込んだ事です」

「結果だけ見ればそうですけど、過程は聞いていないんですか?」


 結果だけ見れば学院には入ったんだ。それは間違いない。だけど、それだけじゃ今回の話は終わらない。


「やむ得ない理由とか聞きましたか?」

「いえ、今回の話の争点はそこではありませんので」


 私と教師陣は見ている問題が違う。そこがだめなんだ。彼らは規則だけを見ている。私はそれに対しての過程を見ているのに。


「やむ得ない理由なら仕方ないじゃないですか! そこを聞いて下さいよ! それとも私はあのまま襲われていれば良かったと?」

「そうは思いません本当なら。ただし、結果として学院に忍び込んだ。それだけで話は終わります」


 これはこのまま平行線になると悟った。だから私は頭を切り替えた。

 停学がどうしたものかと。彼の評判が落ちようが何をしようが私は近衛騎士にする、それに変わりはない。

 だから冷静に考えてみたら進路には関わりがない。ただ騎士学校での彼の評判が心配なだけ。


「もういいです。分かりました。ご自由に」


 おおよそ教師に対する態度とは思えない口調で捨て台詞を吐いた。そうする事でしか私の怒りは吐き口がなかった。

 怒りを吐き口から発散すると幾分楽になった。

 そう言えばさっき気になることを言っていた。


「最後に、彼に対して口添えをしたのは誰ですか?」

「騎士学校の総長ですが」


 なるほど、あの人が庇ったのか。理由はどうであれありがたい話だ。


「そしたら私はもういいですか? それとも私にも何かありますか?」

「いいや、君は被害者になる。だから何もないよ」

「ただ、軽率な行動は慎むように!」

「君の評判にも関わるから、今後はさっき言った様に彼の事は考えた方がいい」


 それぞれがまた言いたい事を言い終わった様だったので私は無言で部屋を出た。

 またお小言が来るかと思ったけど何もこなかった。

 ただ、私はどうしても一言聞きたいことがある。ヤン本人に。会えるかは分からない。だけど一縷の望みを持ってまずは教室へと戻る。

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