第215話 ヤンの処遇

 そんな理不尽な問答に呆れていた時に部屋のドアが開いて人が入ってきた。

 目の前の三人よりかは若い教師だ。

 一直線に三人に駆け寄って小声で何かを伝えた。そしてそのまま居座る事もなく部屋を出て行った。


「君と一緒にいた生徒の処遇が決まった」


 重々しい口調で言う。


「停学二ヶ月だ」

「停学……って何もしてないのに! それどころか助けてくれたのに!」


 一方的な言い草に私が吠えた。私の言葉は聞かないのに何故そんな事を言われなければならないのか。


「それが規則だ。だが、今回は緩くしている。本来は退学処置が妥当だ、しかし、君の近衛騎士と言う立場、そして口添えがあったから停学で済んでいる、その事を忘れるな」


 口添え……誰がしたのか。でも今はどうでもいい。そんな事より優先する事がある。


「一方的です!」

「そんな事はない。向こうの生徒も認めている」

「えっ……。なんで……」


 咎められる事じゃない。それはヤンも分かっているはずなのに。


「ヤンと話をさせて下さい」

「それは出来ない」

「なんで!」


 さっきまで私を伺うように見ていた教師は譲らない。私の要求を一蹴した。


「君のためだ」

「私のためなわけないじゃないですか!」

「君が変わり者である事は聞いている。だからと言って学院に入ってくるような男を騎士にしているのは評判が落ちる」


 なにそれ。そんな事のためにヤンと話させてもらえないのか。

 怒りは声ではなく、手に力が入る事で表面に出てくる。


「彼は私の近衛騎士です!」

「考え直したまえ」

「そんなに評判が大事ですか!?」


 問答は平行線を辿る。どちらかが譲る事はない。


「では認めた事はどう説明する。そして罰に反対しなかった事は?」


 それが分からない。なぜそうなったのかが聞きたい。


「分かりません。だから聞きたいんです」

「分かった。ではこうしよう」


 隣の教師に何かを伝えると、その教師は部屋の外に出ていく。そして、そのすぐ後に戻ってきた。後ろには誰か連れている。


「代理で向こうの生徒と話をしていた者に聞いて見なさい」


 何も分かってなかった。こちらの要求に妥協で応じたつもりになっている。


「そうじゃなくて私はヤンと話がしたいんです」

「そしたら話はいいんだな」


 教師からしたらこの話は終わっているんだ。私が何を言っても向こうの都合だけで処理をする。

 そんな状況に一層手に力が入る。握りしめて爪が食い込む。でも痛みは感じない。感じるのはただただ行き場のない怒りしかない。

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