第214話 規則違反

 私は学院の一室で座らされていた。

 それは何故か。簡単な話ださっきの状況の話を求められていた。

 周りには教師陣が三人こちらを伺うように、燻がるように、疑う様に視線を向けて来ている。


「私は襲われたんです。それを彼に助けてもらったんです」


 もう何度目かの同じ説明。話しているこちら側の方が嫌になってくる。


「そこに先生達が来られたんです」


 私の説明を聞いているのか、聞いていないのかそれぞれ三者三様のため息をついた。


「それはもう聞いた。だけどそんな事があるはずないだろ。学院の周りには高い塀がある、それを登って来るなんて普通に考えてあるかね」


 さっきの襲撃者は先生達には見えなかったらしい。幽霊だとかそんなものじゃなく、ただ単に死角だったのだろう。

 私の話を伺うように聞いていた教師陣が言った。


「君は領主のお嬢様だ。もちろん狙われる事もあるかも知れないが」


 真ん中に座る一番偉いと思われる眼鏡をかけた教師が当たり障りのないことを言う。


「問題なのは騎士学校の生徒がこちらに居た事だ!」


 一人私を疑うようにみていた血の気の多そうな教師が叫んだ。


「あの生徒が君の近衛騎士だとしても騎士学校の生徒がこちらに入るとは何事か。しかも隔てる壁を潜るなんて、一大事だ!」


 そう、問題の争点はそこになっていた。

 「騎士学校の生徒が学院に侵入していた」私の事が襲われた事なんてあまり気にしていない。むしろ、嘘だと思われている。

 私が自分の近衛騎士と密会していたと思われていた。

 『騎士学校の生徒が学院に入る事は許されない』そんな規則があったらしい。これは安全面の問題でもあると。もし仮に騎士学校の生徒が悪意を持って入って来たら。武器の訓練を受けた生徒は完璧にまでとは言わなくても暴虐を尽くせる。

 だからこそ、こちらには入れないとそうなっているらしい。

 逆にこちらがあちらに行くのも合わせて禁止されている。唯一それが許されるのが交流会らしい。

 むしろ学院と学校の外で会うことを禁止する規則がないのならあまり変わらない気がする。


「でもそのお陰で私は助かりました」

「その話が作り話ではないと言う証拠はあるのか?」


 証拠はない。私達の目撃でしかない。

 周りから見れば私とヤンが地面に倒れ込んでいた。それが目を通して見た結果だ。

 しかも私が声を上げていたから同意じゃない、無理矢理な行為だと言うような事も考えられていた。

 私が上げた声が聞こえてこちらに来た教師陣との邂逅は全て仕組まれたかのように最悪のストーリーだった。


「証明は私達でしかないです。だけど嘘ではありません」

「それは証拠にならないだ。分かってくれ」

「だったらどうしたらいいんですか?」


 私が逆ギレ気味に言うと三人のうち二人は黙り込む。あまり強く言えないタイプらしい。


「早く本当のことを言えばいい!」


 一人は変わらず無茶苦茶なことを言う。自分の望む答えが欲しいらしい。

 何があの教師をここまで荒くさせているのかが分からない。あの教師が私を目の敵にするような出来事でもあったのか不思議に思う。

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