第217話 ヤンの考え方

 教室に帰って荷物を取って私は早退した。とは言っても普通なら迎えも来ていない時間だから帰る事もできない。

 早退を理由にして私は学院の外に出た。門を潜って広い緑の草が咲いた一面に出る。

 そこに彼はいた。

 黒い姿で手には大きな黒い鞄の荷物を抱えている。


「よう。来るかと思って待っといたぜ」


 私の心の中を読んだかの様な言葉に目頭が熱くなる。


「ごめん。私のせいで」

「お嬢のせいじゃねぇ。俺は仕事をしたまでだ。気にすんなよ」

「でもなんであっさりと認めたの? それが気になって」


 ヤンは笑った。「それを聞きに来たのかよ」と。


「学院に入ったのは嘘じゃない。そこは厳しく昔から言われてたしな」

「でも理由があったじゃない」

「過程もあったけどよ、あそこで揉めてもそれこそお嬢に迷惑がかかる。あんたが手引きでもしたんじゃないかってな」

「私はいいのに」

「良くないね。俺は近衛騎士だ。そのせいで評判落とされちゃ、アルにぶん殴られる。まぁ退学でも良かったんだけどな、近衛騎士にはしてくれてるし。でも停学程度になったしのんびりと家に一旦帰って来るわ」


 本当にそれでいいのかと心の中に不安がよぎった。だけど、彼の表情はその不安を雲散させる程の説得力があった。


「分かった。ありがとう。貴方は最高の近衛騎士だわ」

「今更な事言ってんじゃねーよ」


 また彼に救われた。さっきの襲撃者のことだけじゃない。私の心のケアまで。


「でもな、気をつけろよ。人気の少ないところに一人で行くな。さっきのやつが何かは分からねえけど、一度は襲われてんだ」

「ありがとう。気をつける。街に行くなら馬車が来たら一緒に乗って行く?」

「いややめとくよ。恐れ多いしな」

「何よそれ!」

「時間あるしゆっくりと歩いて帰るさ。景色でも見てりゃ気分も晴れる」


 そう言い残してヤンは真っ直ぐに続く道を歩き出した。

 その背中を見送りながら、私はこの後の時間、馬車がくるまでどうしていようかと悩んでいた。

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