第212話 異なる空気の二人

 時間が経つのは早いもので交流会から4日が経った。青い色の空とは真逆で私の心の中は不安で曇っていた。

 ユリはもう大丈夫なのか、マルズ君も……。そんなことばかり考えて今日まで過ごしていた。

 交流会が終わってからはまだヤンの所にも行っていない。少し時間をおいた方がいいと思ったから。

 そして今は私は学院と学校を分ける壁のある場所へと来ていた。少し時間を置いてみようかとおもったけど我慢ができずに来てしまった。

 初めてここに来た時にはまだ葉が小さかった木々の葉も今では立派になって来ている。風が吹いて葉同士が擦れ合って合唱をしているように感じる。

 壁に空いた穴を隠すように生えている草をかき分けると前と変わらずに穴はあった。フランソワの細い体で穴を潜るとそこにはごく最近見た校舎が目に入ってくる。


「よく来たな。音がしてから何となく分かったけどよ」


 そこには前と同じポジションにヤンがいた。

 前にここで会った時とは違う優しい顔つき。


「うん。来ちゃった」

「まぁそろそろ来るんじゃねぇかと思ってたよ」

「気になるもの。ユリはどう? マルズ君は?」

「二人とももう目を覚ましてるよ。ただ二人とも部屋で安静にしてるように言われてるらしい。だからまだ直接話せる状態じゃない」


 まずは一安心出来た。心の中で少し心配していたまだ意識が戻っていなかったらどうしようかと。


「そうなんだ。でも意識が戻ったなら良かったわ」

「まぁそうだな。でも怪我が治るには一ヶ月ほど掛かるってのも言われてたらしいし、当分は満足に動けねぇだろうな」


 やっぱり二人とも怪我がひどいらしい。無理もない、あれだけの試合をしたんだからある意味当然とも言える。


「何むくれてんだよ」

「えっ!? 私そんな顔してた?」

「してた。ムスッてな」

「そんなつもりはなかったんだけど」


 それでも自然と出てしまっていたのかもしれない。それ程までに私は怒っていたらしい。


「でもそれでいいんだよ。身内がやられてんだ、その反応が正しいんだよ」


 ヤンから静かに怒りが感じられた。口調にきつい感情が込められている。


「うん。でも……私はまず何より二人の心配がしたい」

「お嬢らしいな。まぁそれが良いところではあるよな」

「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくわ」


 その言葉を最後にお互いの会話が途切れた。何を話すべきなのかが思いつかない。微妙な空気が流れる。怒りと心配、お互いの感情がその場に漂っている。


「ありがとうね。また聞きにきても良い?」

「もちろんだ。ここで飯食ってるよ」

「うん。交流会が来る前にここに来るわね」


 私が聞きたいことだけ聞いて帰るような形になってしまう。でも、現状が明るいわけじゃないからあまり雑談をする気分にもならなかった。

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