第211話 無言の医務室
医務室のベッドにはマルズ君とユリの二人が横になっている。二人共意識がないみたいで穏やかに目を閉じて眠っていた。
側にはアンとユリィが二人を見守るように座っている。
「フランソワ様……」
入ってきた私たちに気がついてアンが暗い雰囲気のまま私達を見る。その様子を見ると私まで不安になってしまう。
「二人は?」
「眠っているだけです。さっき先生方が治療を終えて部屋を出て行かれました。二人とも命に別状はありませんが怪我がかなり酷いらしく」
バツ悪そうにアンが現状を教えてくれた。彼女が悪いわけじゃない、それでもバツ悪そうなのはそれほどに今の状況が悪いと言う事が分かった。
「そう。命が危ないとかじゃないのね。それは良かった、本当に……」
包帯が今見えている部分にも痛々しく巻かれている。その姿を見ると意図せずに拳に力が込められる。
「ありがとうね二人とも、大変だったでしょ」
「これぐらい何ともありません。彼は小柄でしたし」
アンの言葉とは裏腹に前髪は湿っていて、ユリィの髪の毛も汗で濡れたのが乾き切っていない。意識のない人間を運ぶのは大変なはずなのだから。
「でもユリさんまで……あの方は悪魔なのですか……」
アンの言いたいことは分かる。何も試合でここまでやる必要はないはずだ。それなのにこれは酷すぎる。
「本当にね……私も信じられないもの」
「私はあの方苦手です」
お嬢様らしく、綺麗な言葉で言っているけど内心はそれどころじゃないのが表情で分かる。
そして沈黙の時間が続いた。話す雰囲気でもない、かと言ってベッドの二人も目を覚ましていない。むしろ眠っているなら静かにしておかないと行けない。
沈黙の空気を破るかのようにドアが静かに開かれた。入ってきたのは学生じゃない、大人だ。
「目は覚めていないみたいだね」
こちらを一瞥してからベッドの二人を順に見て回る。手には少し大きな清潔感のある鞄が握られていてどこか独特の匂いがする人物だ。
「君達はもう戻りなさい。二人は私が診るから」
「お医者さんの方で?」
「そうだよ。君は?」
「彼女は私の近衛騎士です。彼の方は友人です」
「そうか。大変だったね。でも今はそっとしておいて上げて欲しい」
「今は帰れ。出来ることはない」そう言われているのが分かった。確かにこの人の言う通りだ。
「よろしくお願いします」
「勿論。後で女性の助手も来るから彼女の事も心配しないで」
そして私達は医務室から外に出た。外に出ても特に会話はない。ただ無言の間が続いた。
「とりあえず今日は門まで送るから全員返った方がいい。気分でもないだろ」
ヤンの言葉に私達は顔を見合わせて頷いた。
「あっ、でもアリスが……」
「そっちは送った後で俺が探して今日の顛末話しとく」
「ありがとう。お願いね」
そのままヤンに送ってもらってお互いの学校を分ける門に着いた。この時間でも周りにはポツポツと出入りをしている生徒がいた。その中で私達は一番暗い顔をしていたに違いない。
「お嬢、ちょっと」
ヤンの言葉が耳に囁くように聞こえる。いつもならドキドキするポイントだったかもしれないけど、今はそんな時じゃない。それに声のトーンから秘密の話なのだと察した。
「二人の事が聞きたかったら、壁の穴のとこに昼休み来てくれ。俺はあそこで昼飯食ってるから」
「分かった。ありがとう、お願いするわね」
ヤンの気遣いに触れながら私達は最悪の気持ちで学院側へと戻っていった。
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